2013年12月4日水曜日

空まつり2013 in SEKIYADO NODA

一度天候のために延期になってしまった空まつり、23日に無事行なうことができました。関宿滑空場は土の質が悪く、一度水が上がってしまうとしばらく引かないようで、それをなんとかするために関係者の皆さんが泥だらけになって作業してくれて、なんとか水が引いたというような状況だったようです。飛ぶということは、どんなときでも地上での努力に支えられてのみ成り立つ行為です。本当に頭が下がります。
(写真は全て山康博氏撮影)

今回のショーは、RedFoxの今後にとって、とても重要なものとなりました。今までのRedFoxエアショーは、とりあえず飛んで、飛行中だけ音楽をかけ、その場に合わせた解説を行う、という演出のみでした。でも今回は根本的に違います。飛行前のパイロット紹介から離陸、演技、そして着陸まで、全て予定調和的にデザインされ、あらかじめ練りに練った音楽とMCによって彩られました。この革命的進展は、エアロックで昔MCを担当されていた岩崎麻衣さんに指導いただき、演出やMCを全て担当いただいたことによって可能となりました。パワー機の余裕を持った演技とは異なる、グライダーの臨機応変な特性をどうやって岩崎さんのメソッドに組み込んだらよいのか・・・たくさん議論を重ね、前日まで試行錯誤の連続でした。パイロットとしても、刻一刻と変化する気象条件の中、どうすれば打ち合わせ通り飛行することができるのか・・・競技フライトにも匹敵する重圧を感じました。いつものエアショーでは、皆から見えるところを飛んで安全に着陸すればよい、という原則を元に、気楽に飛んでいました。実力の3割程度で飛んでいた感覚です。エアショーでは精神面の余裕をとるため、実力の7割以下で飛行するのが良いと言われています。今回のショーでは、7割フルに使いきりました。なんとか上手く計画どおりのショーを行なうことができて、良い前例となりました。次回以降、見る側をしっかり意識したショーを作っていくための大きな布石となりました。
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今回の演目で一番受けの良かったものがこれ。
なんと呼んだらいいのか・・・タンブル?ラムシェバック??


まず垂直上昇しながらポジティブスナップロールに入れて開始します。これにより重心のフライトパスから機首と尾部が外れた状態での回転運動が得られるのですが、この回転に急減速が伴うため、おそらく遠心力により機首と尾部が回転の外側に引っ張られて機体がコマのように回転を始めます(一回転目)。2回転目では、その回転を維持したまま落下に転じるため背面フラっとスピンに移行したように見えますが、実際は慣性で回っているだけです。落下することによりだんだん速度が付いてくるので、停止前90度くらいからは背面スピンの空力に移行しています。

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今回は、演技全体を撮影してyoutubeにアップロードしてくれた方がたくさんいます。

まず航空カメラマンの布留川さんの素晴らしい編集動画。一発目のフライトで、打ち合わせも無しに、これだけの動画を撮るというところにプロの技を感じます。

一般の方撮影の動画。お客さんの反応がわかって嬉しい。



トライアルのトップライダーかつモーターパラカメラマンという魅力的なおじさん、村岡ジッタさんもリハーサルから撮影してくれました。今回は旅人の青山直子さんに公式カメラマンをお願いしたのですが、私自信の知識の至らないところもあり、こちらも村岡さんにご指導いただきました。

RED FOX 2013 11 22 空まつり前日予行
http://www.youtube.com/watch?v=_L0wDNVkc9o
RED FOX2013 11 23空まつり本番
http://www.youtube.com/watch?v=XFzeCjkJsd0
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みんなの努力が身を結び、とにかく上手くいってよかったと心底思えるイベントでした。

10年ほど前、私はこの場所でロック岩崎さんの最後のエアショーを見ました。グライダーの訓練を始めて数ヶ月といった時期だったと思います。自由自在に飛び回るロック岩崎さんの姿を見て、アクロをやりたいという非常に強い思いが私の心に根をおろした瞬間をはっきりと覚えています。そんな私が今こうやって、岩崎麻衣さんと一緒にエアショーを演出し、頑張って飛び終えたその意味は、かつての私のような人を発掘すること、人の心に欲望を喚起すること。このイベントを見てくれた人の心の中に空への欲望が少しでも芽吹いてくれていたら・・・

2013年10月3日木曜日

アクロバット飛行についてのインタビュー


道内広報誌への記事掲載にあたって、(有)アルゴ地域総研の小椋さんよりインタビューを受けました。そのテープを起こしてくださいましたので、ここに掲載させていただきたいと思います。

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グライダーアクロバット飛行について(語り手:梶 聞き手:小椋) 

Q:曲技飛行を始められたきっかけはなにか?
もともと自由に空を飛びたいという思いを持っており、ハンググライダーやパラグライダーに興味を持っていました。飛んでどこかに行きたいというより、自由に空を飛びたいという思いが強かったんです。広島出身なんですが、大学で静岡にきました。そのときにたまたま清水港でエアロックのエアショーを見て、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けました。20歳くらいのときですね。

Q:現在30歳だったら、まだ10年くらいしか経っていないですね。実際に練習を始めた経緯を聞かせてください。
しらべてみると、飛行機のアクロバットは高いし外国でしかできない。でもグライダーでもアクロバットできることがわかり、しかもグライダーの基礎的な飛行なら近場で習えることがわかりました。電車で30分くらいのところに見つけた富士川飛行場でグライダーの訓練をはじめたんですが、そこにREDFOXというグライダーアクロチームが巡回でやってきて体験飛行をさせてもらったんです。そのときチームオーナーの鐘尾(みやこ)さんに、アクロバットをやりたいのならポーランドの先生を紹介するよと言われて・・・その人がイージーマクラーさんという方で、これまで7回世界選手権で優勝している有名な方でした。紹介されて以来、免許を取って、いろいろな要件を満たしてポーランドに行きました。

Q:世界レベルの先生を紹介するならば、それなりの経験を何年も積んだ上でというお話ではないんでしょうか?
「練習して免許を取ったらすぐにでもポーランドに行ってもらうよ」というようなお話でした。

Q:ポーランドへ行く前はある程度、日本でも練習を積み重ねていたんですね。
少しですね。北見の加藤さんにも一緒に乗ってもらいました。板倉滑空場では櫻井玲子さんに乗ってもらって、FOXで10回ほど練習したくらいです。あと、私はカナダでプロペラ機(陸単)の免許も取っているんですが、そのときに、シタブリアという飛行機で自分で1人でやっていたんです。ただ、その経験もあわせても、かなり未熟な状態でポーランドに行きました。それほど、丁寧にきちんとやったわけではないんです。

Q:ポーランド語を勉強して行ったんですね。
いえ、片言の英語でお互いやり取りしていました。マクラさんが角田滑空場に来られたことがあって、その時にredFOXのエアショーがあって、その手伝いに行っていたのでそのときに紹介してもらって面識ができました。そこで「来年行くからよろしく」というお話ができました。最初2週間行って、その後2週間後に、また2週間という感じで、1年目は合計1ヶ月くらい訪問して訓練しました。そのときにヨーロッパ選手権にも出ました。

Q:4週間訓練するだけでヨーロッパ選手権に出場できるということが理解しにくいんですが・・・
アクロバットならそれが可能なんです。例えば、ソアリングの世界選手権なら10年の訓練が必要などと言われるんですが、アクロバットだと短期間の訓練で世界選手権に出ることが可能なんです。アクロは限られた空域のなかで安全に飛んで、ただ降りてくればいい、それだけなので・・・。

Q:曲技というのはどういうスポーツなんでしょうか。その本質についてわかりやすく説明していただけますか。
曲技とは何かというところを追及しだすと際限がないですが・・・簡単に言うと飛行の正確性や美しさを求めるものです。例えば宙返りを描くにしても、その航跡が真円でないといけません。真円になるための過程は無限に近くて、とても難しいです。ちょっと間違うと縦長になったり、降りてくるところが低かったりとかします。ひとつひとつの技が理想的な形でなければいけないので、それを飛行のなかで体現していくのは非常に難しいです。

Q:そうですね、手で円を描くのでも非常に難しいですね。


―重力Gと演技について―

グライダーアクロバットは+7Gから-6Gの範囲の中で飛行します。プロペラ機は+10~-10Gくらいのなかで曲技をします。+の重力では体が押さえつけられ、-のGでは浮く力を受けるのです。直立した状態では+1Gで逆立ちをしているときには-1Gを受けている状態です。Gを受けながら演技をするのは、最初は大変ですが、少しづつ慣れてきます。最初はもちろん、緩やかなGのもとで飛行訓練をします。
強いGをかけなくてもできるアクロバット飛行もたくさんあります。練習のなかで自分が耐えられる無理のない範囲、自分に見合ったGのなかで演技をすればよいのです。楽しみ方はいろいろありますし、強いGに耐えなければいけないと考えることもありません。
マイナスGで頭に血が上り、なかには目の裏の血管が切れて目が真っ赤になったりする人もいます。アドバンストからアンリミテッドくらいの競技レベルでそのような状態になります。この+7Gから-6Gは世界のトップレベルの競技者が受けているGです(プロペラ機アクロだと+8から−8くらい)。滝川のショーでも+6~-4Gを受けています。

Q:デモの方が自由にやれるから、強いGを受けながらでも強引に派手な演技をすることはあるのか?
それはやらない。やる必要がないから。(そこまでしなくても、十分魅せることができるから)。競技では限界に近い軌道を求めます。そのためにGが必要になってくるんです。これに関して言いたいのはループだけなら+2Gでもできるということです。ループだけで曲技として満足の人がいれば、その人はその範囲のなかで曲技を楽しむことができます。人それぞれの目的に従ったやり方があることを強調したいのです。

―曲技と通常の飛行の分け目を無くしたい―

これまでの話の根底にある共通の考えとして、これは曲技なんだ、これは通常に飛行なんだという分け目をなくしたいというのがあります。エアラインや空撮など普通の飛行機は、同じ高度と方向を保って水平直線飛行をやっていますが、曲技にも同じ種目があるんです。(すなわち、普通の飛行機も種類は少ないけれど曲技の種目を選んでやっているんだということです。)水平直線飛行も宙返りも(ループ)も曲技の種目が増えただけで同じようなことをやっているのに、円の形を描いて飛ばすことだけが(一般の人々には)特別なことに思えるのか・・・そういうことではない。直線飛行も円を描くことも全部つながっているんです。直線に飛ばしたいと思ったら直線に飛ばして、曲線にしたいと思ったら曲線にする。飛行機を思い通りに操るという意味では、どんな飛行機でもやることは同じです。


―パイロットの心―

Q:真円を描くには操縦桿を固定すればいいということではなくて、飛行機が真円の軌道をえがくように操縦をしなければならないんですね。操縦桿を(目一杯引いて)固めればいいということではないですよね。
外部条件、気流の条件などが常に変化しています。それにあわせて操縦を行なわなければならないんです。どこかを止めると言う事はどこかを動かすということなんです。

Q:梶さんが追求されているのは「美」として操るということですか?真円を描くとか、水平直線を描くとか・・・美を追求しているという言い方がわかりやすいんでしょうか。ちょっと、真円が欠けても満足できないわけですね。でも、これは自分では見えないんではないですか?
そう、自分では見えないんです。地上からの意見を聞きながら・・・うまくいった時の操縦の仕方だとか・・・景色の見え方とか・・・(それが操縦技術のなかで一体化してどこまで真円に描けているかということが実感できるようになります)

Q:それが快感なんですね。
正直快感とおもったことはないが、無心の状態ですね。その一瞬を生きているんだということだと思います。自分を外から見て「自分は楽しんでいるんだ」という風に思ったことはないんですが、やっぱりやらなきゃいけない、やることが自分のなかの自然なこととして・・・。でもレジャーとしてアクロをやる人であれば、飛ぶことで非日常を感じるんだと思います。しかし自分の場合は、そのときに生きているということしか言いようがないんです。

Q:野球を好きでやっている人が、うまくなりたくて練習していると、その練習が辛くてやめたいと思う。しかし、離れてみると、また、うまくなりたくて練習をしたくなるというような感覚ですか?
辛いというような感覚はあります。しかしそこから離れたいという風には思わないですし、常に練習してうまくなりたいという思いがあります。しかし、飛んでいるときはまた違っていて、自分の意思とか感情が、完全に世界に向けて拡散している状態、自分の境界が消えていて、空気があって、重力があって、飛行機があって・・・そのなかにただいるだけ・・・飛行機が求める飛び方をやるだけ。

Q:そのように頭で考えることを単純化させていかないと、速度の速い演技(操縦)をするのは難しいということなんでしょうか?
考える時間が無い、というのはあります。考える必要も無いですね。例えば「楽しい」なんていう言語化された感情なんかも雑念だと思うんです。勝ちたいとか、悔しいとか、そのときの自分のやっていることを考えるとか・・・、歩いているときに自分のひざの関節の動きなんかは考えないですよね? それと同じことで、考えるということが既に雑念であって・・・。競技中にミスをしたときなんかに、ここはなにをやるべきだったんだろうか、まちがえたんじゃないだろうか・・・そんなふうに考え始めてしまうと飛行がグダグダになります。

Q雑念がはいってしまうと競技としてはダメになってしまうということですね。自分を単純化するということは結構な快感でしょうか?
 後から考えるとそういうことなのかもしれません。

Q自分をシンプルにして何かに打ち込んでいるときは、或意味楽しいんでしょうねぇ、へらへら笑って楽しいというのとは別の楽しいと思える瞬間なんでしょうねぇ。
また、空に上がらせるだけの何かがあるんですよね、それで。スポーツとかやっている人だったら共通に感じているものかもしれません。スポーツでもダンスをやっているときでも、ああ、そう、音楽を聴いているときにでも・・・時間も場所も忘れて、自分は誰でなんてこともわすれて聴き入っています・・・。


―怖くないのか―

怖さという感覚は、実は作り出されたものだと思います。ラインなど通常の飛行をやる人は水平直線飛行をやるけれども宙返りはやらない。しその境界線は本来ないにも関らず、水平直線飛行は怖くないのに、宙返りは怖いという。水平直線飛行に慣れればなれるほど、たくさんやればやるほど、宙返りが怖くなる。だから、通常の経験豊富なパイロットほど、アクロバットを恐れるんです。怖いと思わされているんです。つくられた概念なんです。飛行機を始めたばかりの人にとってはどんな姿勢も(怖さという意味では)変わりません。最初からアクロをやっていればそれが普通の飛行です。アクロパイロットはリスクや怖さと言うものをかなり具体的に捉えていて、このときに何があるから怖いとか・・・。見慣れない姿勢だから怖いというような漠然とした言い方は非合理というか、全く意味が無い。

Q:直線飛行の場合には一番制御できる感覚があるのだろうと思います。姿勢が通常の逆で頭が地面に近くて足が空に向いているというのは、頭から地面に落ちていくという危険性があるので怖いのだろうと思うんですが・・・
このまま落ちるかもしれないというのは、それは、飛行機を制御できていないという風に思ってしまうためでしょう。もし、本当に落ちていればどんな姿勢でも怖いんです。しかし、制御できていることを認識していると怖くないんですよ。最初は水平直線飛行だって思い通りにコントロールできないから怖いんです。逆に言うと、逆さまの姿勢だろうと、どういう姿勢であれ、それに慣れてコントロールできる自信があれば怖くないんです。コントロールできないところが怖い。

Q:つまり、怖さと言うのはコントロールできるかどうか、できているかどうかということだけなんですか。
コントロールできていて、自分が何をやっているか、どういう状態にあるか知っているということでしょう。そして次にどうなるかが予測でき、次の手がわかるということでしょう。アクロの場合は予知できることしかやっていなんです。予知できないものが入り込む領域がかなり少ない。そこがクロスカントリーとの大きな違いかもしれません。

Q:不測の事態、予見できないことが起こる可能性が少ないということですね。
飛行にとって一番予見できないものは気象です。クロスカントリーだと飛行時間も長いし、場所も次々と移動します。いろんな変化する気象に遭遇するわけです。アクロバットだと上がってしまえば1キロメートル四方の10分間のことさえ知っていればいい。

Q:それは逆に言うと管理された環境のなかで飛行するということですね。これは、先ほどの「自由に飛びたいからアクロなんだ」ということと相反することともいえますね。本当は非常に安全なところを管理下にしてやっているんだということですね。こういうことを考えていくと自分が求めているものとやっていることとの矛盾が出てこないですか?
常に矛盾だらけです。自由とか制限とか・・・そのかなで自由とおもわれるものを追求しているんですね。


―難しくないのか―

Q:一般には、アクロバットは失速させて反転するなど普段の飛行では考えられないことをやっているから、当然難しいことをやっていると考えるが・・・
そこにもつくられた側面があって、例えば通常の飛行機が着陸前に行なう旋回は非常に難しい高度な技術がいるのです。通常の飛行のパイロットは操縦の基礎段階からやります。宙返りは操縦桿を引きさえすればなんとなく出来てしまいます。でも旋回の場合には操縦桿を引くだけではなくて、複数のことを同時にたくさん行なわないといけない。

Q:ソロに出る許可が出た練習生の段階から曲技をやる人はいるんですか?
あまりいないです。ソロに出れるからといって、突然、曲技ができるということではありません。飛行機を飛ばして(離陸して)降りてくるという流れの中で宙返りをする必要はないので、そうしたことを習わないのです。

Q:単に離陸して飛行して旋回して着陸する行為の一環として、なぜ、宙返りなどの技術を学ばないのでしょうか?
必要がないということと、練習機はそのために設計された飛行機ではないということがいえます。曲技機は、背面飛行などが可能な性能をもつように構造上の設計がなされている。通常の飛行機はそのようには設計されていない。だから、練習生はその目的で設計された飛行機を設計の目的どおりに操縦している。とはいえ背面飛行ができないような性能の低い飛行機でも自由な飛び方(旋回なども含めて)をしようとする、これはアクロバット飛行と同じ創造性の発露であり同じ精神です。限られた性能のなかで目一杯自由に飛んでみること、これは曲技と一緒なんです。

Q:そういわれれば、通常の飛行機と曲技機が全く別のもので、曲技機専用の操縦性能の高い飛行機があるということは一般の人はあまり知らないことですね。(だから、通常の飛行機で曲技をやっていると思っているから、なんであんな難しいことができるのか、余計に不思議に思うんでしょう。)
飛ぶということには、飛行機の構造上の制約だけではなくて、制度的な制約、身体上の制約などいろんなところから制約がかかっています。飛行機は目的地にまっすぐ飛ぶもんだと言う固まった考え方(制度的な制約)からもっとも自由になりたがっているのがアクロバット飛行です。飛行機の構造が求める動きをひたすら追求しているんです。

Q:赤ん坊から少し大きくなった子供が2足歩行できるようになると、転がってふざけたり、地団駄踏んだり、スキップしたり、片足でけんけけん歩きしたりします。もう少しおおきくなると逆立ちしたり、前方回転や横回転したりしますね。
そうした行為は特別に難しい行為ではなく身体の成長とともに本能的に行なわれる行動ですよね。しかし、どうでしょうか、親は子供を連れてどこかへ出かけるときに、子供がふざけて遊ぶことをなるべく禁じて、常に、ある目的をもって歩くというような行為しか認めない場合が多い。しかし、子供は歩くこととそのなかに内在している、歩くこと以外のふざけるという行為を常に行なおうとします。子供はただ目的地に向かって歩くことだけでは満足せず、走ったり、おっかけっこをやったり、ふざけながら歩いてみたり、いろいろやります。体や心身の能力がそれを求めているのです。普通に歩いて座って寝るといった行為しかさせられなければ、大人になってから、回転してみなさい、横転してみなさいといわれると非常に怖くなるんではないでしょうか。アクロバットもそれと同じです。飛行を始めたときから、回転したり、横転したり、宙返りしているとそのことが楽しくて、何も怖いというような特別なことではなくなるし、特に難しいという操縦でもなくなるんです。

Q:アクロバットをやっていて、そうした本能的(に自由に飛びたいから飛んでいるんだ)なものを感じることはありますか?
感じるかと問われるとはっきりとそうだとは答えにくいのですが、人間誰でもが持っている創造性でしょうし、アクロバットは飛行機の性能上できることを追求していくという面はあります。創造性を失わせて一つの方向だけに固めてしまうものから逃れようとしています。

Q:要は、飛行機に備わった能力を飛行機と一体となって操縦(引き出)していけばいいのであって、そもそもそれを飛行機が求めているわけですから、それは容易で自然にできることなのですね。こういう考え方をもっと広めていく必要があるような気がしてきました。特に、通常の目的地にだけしか飛ばないパイロットたちから広めていかないといけない気がします。
そうですね。まさに、私もそう思います。


―アクロバット飛行はその人の性格が出る―

アクロバット飛行はその人そのものが出ます。私の師匠(マクラさん)は雄大で荘厳なものを求めていて、地上での動きもおおらかなんですよ。飛行自体もおおらかで優雅なんです。逆に、地上で攻撃的な人は競技でも攻める競技をします。地上で論理的な人は論理的なフライトをします。個性がそのまま飛行に表現されます。自動車では隠れた性格が出るといいますが、曲技はそのままの性格が出ます。

Q:車だと普段、おとなしい人でも車に乗ると人が変わって暴力的になるとかありますが、そういう風にはならないということですか?
そういう人はあまり見たことがないですね。おとなしい人はおとなしい曲技をします。車は邪魔が入るんでしょうか、邪魔が入ったときにその邪魔をどう排除しようかと、いろんな車がいる中で(ひしめきあっているなかで)、パワーが引き出されているから余計に奥の感情が出てくるのかもしれません。アクロバットでは飛行機の性能を目一杯使った演技をします。しかし車の場合はその性能を目一杯使うことが許されずに非常にジレンマのある状態で運転させられているということがある。そして、そのパワーを引き出そうとすると、社会的に抑圧された奥の性格によってそのパワーを引き出す(暴走する)という行為になってしまうということなんでしょうか。逆に、アクロバットでは邪魔も入らないし、他人とコミュニケーションすることもありません。ただ、1人で黙々と演技をしますので、素のままの自分が出ます。自分自身を抑圧するような邪念が入らない状態で、能力を目一杯拡散させようとします。そのような状態では、素の自分になっているときがもっとも良い演技ができるからだと思います。素のままの自分でいられるし、それがベストな状態だとわかっているのです。ピアノの演奏などは脱力した状態がもっともいい演奏ができるといわれますね。それと同じようなことがいえるのでしょうか。自分というものに意識が向かなくて、ばあっと自分が拡散していって性能を最大限出しているという状態。何からも抑圧されていなくてただ単に自分の思い通りに・・・・

Q:内側に抑圧するものがなく、能力を目一杯拡散するということですね。

―怖い思いをしたこと、事故にあうかもしれにような事態にあったこと―

曲技の練習や競技のなかで怖い思いをしたことはありません。しかし、そうではない場面での飛行では何回かあります。たった15分の飛行と言えども空の天気は急に変わります。そのへんの天気の知識が弱いために兆候を読み取れなくて怖い思いをすることがあります。例えば、雷雲が迫ってきているのに、まだ大丈夫だと思って曲技の訓練をやっていました。そしたら、意外とはやく雷雲がせまっていて、それほど離れてもいない飛行場に戻るときに、突風に煽られてたいへんな思いをして戻りました。だから、アクロバット以外の飛行に関してもいろいろと勉強や技術を積んでいかないといけないと思っています。また、限られた空間だけで演技したり競技することに慣れすぎると、その空間以外の条件がどのようになっているのかを見落としがちです。

Q:世界選手権などでの競技ではベストな気象条件を求めてエリアを設定するというより、ベストな気象条件がそこに現れるのを待っているわけですね。
アクロバットの競技は定められた1キロメートルの立方空間のなかで、演技を行なうものです。限られた空間で、しかも、風雨など気象条件などの影響を受けにくいベストの条件の下で行ないます。ベストな条件で競技を行なうために競技が1週間も延期されることがあります。今日も風が強い、雲が低いなどと言って1週間も待つことがあるんです。エアショーなどでは、気象条件が悪いときには、飛ばない勇気が特に要求されます。これは、どのようなスカイスポーツでも同じことが言えるのですが・・・。

―アクロバットは禅のようで内向的―

Q:アクロとクロスカントリーや通常の飛行では、精神的な気のつかいかたも違うわけですね。
アクロは禅のようでより内向的に自分の内側にこもっていながらにして抽象的な世界に広がっていくような感じですが、クロスカントリーは具体的にいろんな場を求めてより遠くへ出かけていきます。いろんな気象条件との付き合い方もしらないといけない。ある意味とても社会的です。模式図に描くと、アクロは自分の自己の境界線があったとして、志向として常に内側に向かって行って、どんどん究極的に集約された点に向かうんですが、向かうことによってこの境界線を無限の領域に広げていく。内にこもることによって全体に開く、という感じがあるんです。クロスカントリーはおそらく自分から積極的に自分の境界線を変形させて、新しい環境に適応しながら外へ外へと開いていき、積極的に外部からのかく乱を求める。それによって・・・。

Q:外部の追及も受けながら自分の主張もするよということでしょうか。
そうです。それによって自分の境界線を無限に広げていくということです。アクロとクロスカントリーではマインドが全然違います。


―どんな人がアクロバットに向いているか、どんな人に参加してほしいか―

目が見えている人でアクロが好きな人なら誰でも向いているということしかいいようがありません。もしかしたら、目が見えていなくてもよいかもしれない。

Q:自分の場合に、他人と比べて、自分は向いていないとか、人より劣っていると感じたりすることはないですか?
自分に劣っている点を見つけたり、できないことや課題があるとより楽しくなってきて、また頑張ろうと燃えてきます。向上心を常に持ち続けています。課題を見つけるのが楽しみであって、それが生涯スポーツと呼ばれるところでしょうか。課題をどんどん見つけて、新しいことに挑戦して・・・。とにかく、向いていない人がいるということを絶対に言いたくない。その意味は、その人の限界があるならばその人の限界のなかでやることができるからです。本当に危険な人だったら、教官と一緒に飛べばいい。
劣っていようが向いていなかろうが、「誰でも自由になれる」ということははっきりといっておきたいと思います。自分の求めるものを一歩踏み出せばすぐにできるんだということです。自分のやりたいことをただ単にやるということです。アクロバットというと非常に難しそうに見えるけど、入ってみると簡単なんだ、ということです。だから、どんな人でもすごい難しいことに思えてもやろうとすればできるんです。もちろん、根本的にできないことはできないけれども、やろうとする自由は誰にでもあるし、やろうとすれば結果もついてきます。誰もがトップ選手になれるなんて言いたいわけではなくて、だれもが自分に合った仕方で、自分のイメージを具現化できるし、する自由があると言いたいのです。宙返りできて楽しい、それだけでもいいじゃないですか。

Q:そう言われると、ずいぶんアクロが近くになったような気がします。アクロの体験飛行を桜井さんが行なっている映像をYoutubeで見ました・・・。体験する人が教官の前に乗っていました。梶さんがおっしゃっているように、門を叩けば体験できるということをやっているわけですね。
RedFoxも日常的に体験飛行をこなせているわけではありません。櫻井さんも神戸に住んでいて、板倉滑空場で体験してもらうことは大変なんです。私は札幌だし・・・。滝川のように、行けばすぐ体験できるよといういことではなくて、予め、連絡をいれてもらって、何ヶ月も待ってもらって、やっと実現するような状態なんです。

―どのくらいお金がかかって、どこで習えばよいかなど―

国内ではRedFoxの他にもいくつかアクロ機を運用しているグループはありますが、事前に申し込んでスケジュールを調整して乗せてもらうことになると思います。アメリカなど航空先進国なら、気が向いたときにフラッとスクールに行って乗せてもらうなんてこともできます。目指すレベルによっては、ロシアやヨーロッパに渡って本格的にやっている人と一緒に飛ぶ機会を得るのもいいでしょう。お金に関しても、その人のやりたいことによって1万円〜数千万円とかなり変わってきますので、簡単に言えないんです。関心のある方には、その人に合った訓練の始め方などを個別にアドバイスしています。

2013年8月29日木曜日

2013年度英国選手権(アンリミテッドクラス)への参戦

※この事業は、札幌市スポーツ振興基金助成金を受けて行われました。

英国選手権は、スタンダード(初級)以上のクラスを対象として年に一度行われる国内大会です。私はこの大会のアンリミテッド(無制限)クラスに参戦すべくイギリスへ舞い戻りました。

使用する機体は前回と同様、British Aerobatic Academyのチーフパイロット、エイドリアン・ウィリス氏所有のエクストラ200(参照UR:http://www.BritishAerobaticAcademy.com/)。パワーが無いと言われようが、重いと言われようが、とにかく今年はこの機体で頑張ります。

訓練はいつもと同様、リトルグランズデン飛行場で行いました。基本的には一人で、時々地上から見てもらいながらのクリティーク(評価)を受けながらの訓練でした。以前にも書いたかもしれませんが、国際審判であるニック・バッキナム氏や、世界選手権10位以内に何度も入る実力のマーク・ジェフリース氏に評価を受けることができるここの環境は、競技飛行の上達にとって非常に理想的です。
(飛行場仲間のエアショーパイロットクリス氏と編隊飛行)

アンリミテッド特有の、プラス8Gとマイナス8Gが交互に頻繁に入れ替わり立ち代わりかかってくる身体的負荷も、もう気にならなくなりました。その代わり、これもアンリミテッド特有の、踊っている感覚とでも言うべきでしょうか、細かい数字を気にするでもなく思考を空間全体に広げ、自由に3次元の身体表現を行なうような感覚になります。これは、飛行機の設計やそれをとりまく思想/自然が有する潜在性としての運動に近づけば近づくほど強く感じる感覚であり、やはりグライダーでも飛行機でもアンリミテッドまで行けば同じことなんだな、と今になって確信がもてました。グライダーのアンリミテッドは課目だけ見れば簡単そうに見えるかもしれませんが、その機体の能力が求める通りの飛行という意味においては、飛行機のアンリミテッドと全く同等の困難さ/価値があります。飛行機(自然)−制度−人間の三者間に潜在する規則が無制限の環境の中から浮かび上がるとき、飛行の美が現れます。
(自由演技の動画。エクストラ200の性能の限りをつくします)
(上の動画で飛行している自由演技のシーケンス図)


20時間ほどの練習飛行を2週間ほどかけて行い、選手権を迎えます。十分とは言えませんが、それは誰も同じ条件。頑張るしか無いでしょう。

イギリスは狭い国なので、どの選手権会場もすぐに飛んで行ける距離にあります。リトルグランズデンを飛び立って20分ほど、会場であるSywell飛行場が見えてきました。競技エリアを示すボックスマーカーが敷設してあります。下の写真のオレンジ色に見える「カギ括弧」のようなものがそれです。見えにくいですね。実際飛んでいても、よく見えません。競技中にこんな見えにくいものを探すのも大変なので、結局は地形全体を頭に入れて、全体の流れの中で飛んでいます。重要なのはボックスの中を飛ぶことではなく、適切な場所を飛ぶことです。


競技開始です。パイロットブリーフィングが始まります。今回、無制限クラスの参加者はたったの4人。上位クラスに行くにしたがって人数が減ってきます。みんな、勝つことばかり考えずにどんどん自分の限界に挑戦してほしい。そうしてこそ、飛行技術というものは全体を通じて極限に近づいていくのだから。


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今回アンリミテッドクラスに参加する飛行機たち。

 XA41。エスバッハ、と呼ばれることが多いです。FRP製の超高性能機、だけど下のExtraよりも重量が重い上、ロールレートが爆発的に早いため、制御の難しい飛行機だと言われています。この飛行機に乗るのは、世界選手権の上位常連、ジョー・クーパー氏(http://www.geraldcooper.com/)。彼のようなトップレベルのパイロットと一緒に飛び競えることが、選手権に出る第一の意義です。


Extra330SC。ハイパワーかつ軽く安定しており、ロールレートも十分に早く、とても良い飛行機だと思います。今のところ、一番好きな曲技機。乗ってみたい。この飛行機にのるのは、サイモン・ジョンソン氏。彼は去年アンリミテッドへ昇格したものの、去年の英国選手権は雨のため中止となり、今年が初めてのアンリミテッド選手権ということになります。










Cap232。とても軽いうえ操縦特性も素直らしく、古いのに最高性能を誇っているような感じの面白い機体です。しかも安価。壊れたら部品供給が困難なことが難点?この機体に乗るのは友人のトム・ベネット氏http://www.bennettaerobatics.com/#/pilot/4577022254。若くて才能あふれるパイロットです。彼も今年が始めてのアンリミテッド。
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飛んだアンノウンは以下のようなものでした。



不可能ではないけど・・・高性能機に紛れると厳しい。しかしアンノウン2(右側のやつ)では、67%をとって1位になることができました。性能を経験でカバーできたような気がして、少し嬉しい出来事でした。

しかし総合順位としては4人中4位。これが実力でしょう。

目標としていた65%には届かず、総合63%という結果。とはいえ、2数週間の練習で前回の得点率に5%も上乗せできたということで、まあこんなもんかな、と思っています。曲技飛行の上達がいかに難しく、いかに大きな投資を要するか・・・グライダーでよーく知っています。だからこそ、楽しい。自分に出来ないことを知るのが、楽しい。自分がまだまだだと思えば思うほど燃える。このような自虐的な趣向を持っていてこそ楽しめるスポーツなのかもしれません。


これで今年のパワー機は最後。寂しいものです。次は来年。春以降仕事がなくなることが懸念されていましたが、なんとかあと2年継続できることになりました。なので、来年の夏、アンリミテッドのヨーロッパ選手権(EAC)にチャレンジしたいと思っています。必要なものは二つ。「EASAのライセンス」「高性能機」。道のりは遠いようですが、なんとかなるでしょう。まだまだ、飛行機の本来を求める道は始まったばかり。これからの向上が楽しみでなりません。

2013年7月21日日曜日

北海道スカイスポーツフェア イン 滝川

7月21日に滝川スカイパークで行われた全道イベント「北海道スカイスポーツフェア」にてアクロバット飛行展示を行いました。機体は、滝川スカイスポーツ振興協会(SATA)所有のFOXです。SATAとRedFoxとの共同運航という形で飛ばせていただきました。



天候にも恵まれ、逆光で少し見づらかったかもしれませんが、楽しめるショーになったと思います。
(ここからの写真は、RedFoxオフィシャルフォトグラファーの山さん撮影)

よく、飛行中に何Gかかっているのか、と聞かれることがあります。グライダーアクロだと、一般的なショーフライトではプラス5G、マイナス4G、といったところでしょうか。これが競技飛行になると、プラス6G、マイナス5Gほどかけないと、うまく形を作れない課目がでてきたりします。


急降下して加速し、観客席前を280キロで通過します。


直後、急上昇して反転。インメルマンターンと呼ばれる技です。


いつもとは違う機体で、違う環境でショーをやる。そして、個人で依頼を受け、個人で出向き、飛行する。たくさん、学ぶことがありました。イベントの中でのパイロットの動き方、タイムスケジュールを把握して出来る範囲での演出を行なうこと、そして効果的な店の出し方・・・これまではチームに頼っていたことを全て一人でやることになり、大変勉強になりました。このような機会を与えていただいたSATAの方々には、感謝の言葉が尽きません。


楽しいイベントでした。来年も参加させていただきたいところなのですが、仕事で転勤するためおそらく参加できなさそうです・・・。




2013年4月28日日曜日

イギリスでの動力機競技会 ーアンリミテッドクラスへの挑戦ー

今年の主眼は、動力機によるアンリミテッドクラスへの挑戦です。そのために、グライダーの世界大会もキャンセルしました。第一回目の渡航を終えたので、ここに記録します。

訓練場所は去年と同様、Little Gransden Airfieldです。使用機材も去年と同様、Extra 200。British Aerobatic Academy(http://britishaerobaticacademy.com/)という個人スクールを運営するエイドリアン・ウィリス氏の所有する飛行機です。


このスクールはいわゆる「飛行学校」という雰囲気ではなく、個人塾のようなものに相当するでしょうか。飛行場にあつまる仲良しグループの中に入れてもらって訓練するような感じです。

友人の競技者トム・ベネット氏がCap232に乗って遊びに来てくれた 

経験豊富な競技者に地上から見てもらい、アドバイスを受ける

イギリスのアクロ環境は、私が経験した中でも世界最高です。村の上以外ならどこでも曲技できる空域、オーガナイズしさえすればいつでもグラウンドクリティークが可能な環境、世界でもトップクラスの飛行技術を持つマーク・ジェフリース氏の技術を間近で見て教えてもらうことのできる飛行場、曲技仲間にいつでも会いに行ける適度に狭い国土、週末に終わる気軽な競技会、そして飛行場に連日集まる気のいい人々(本当にいい人ばかり)との飛行機・曲技談義・・・天気さえ良ければ、と思うことはありますが。

とはいえ今年は比較的天気も良く、順調に訓練することが出来ました。今年はアンリミテッドへの挑戦・・・アンリミテッドというのは、言葉の通り無制限クラスであり、曲技飛行の最上級カテゴリーです。求められる機体性能も、競技者の腕前も段違いに高度であり、なかなか挑戦できるものではありません・・・というのが俗説、というか、皆に言われることなのですが・・・本当にそうなのか?パワーが無ければ高度を使えばよいのではないか?下手クソでもネガティブスナップやってもいいんじゃないか?と、私は常々思っていたわけです。アクロというのは、機体の設計が求める機動を人間の限界まで攻めればいいんじゃないか、機体構造的に出来ない機動をやるのは論外だけど、機体が出来るのに人間がやらないっていうのは如何なものか・・・それなりに高性能機に乗っていて腕もあるのに、まだ下のクラスで修行しなければ、なんていう風潮は、やはりナンセンスだと思うのです。その風潮が、飛行経歴が長くて腕も良く、高性能機を持っている限られた人だけがアンリミテッドに出場している現状の地盤を形成し、アンリミテッドは限られたハイパワー機でしか飛べない、というのが通説の根拠となっているのではないかと思います。今回私は、一般的には重くてパワーの無い飛行機と思われている「Extra 200」でアンリミテッドを飛行することにより、その通念を覆しました。

アンリミテッドで難しいのは、上昇しながら「何か」をやる課目が増えてきて、エネルギー的に厳しくなってくるところ。特に、垂直上昇でのスナップロールはエネルギーの減衰が激しく、その後さらにエネルギーを必要とする機動を要求された場合、それを確実に遂行できなくなる場合があるのです。しかし、スナップロールというものは、操縦者の技量によってその特性を顕著に変えます。私のスナップロールはまだ無駄が多く、ロールレートも遅く、エネルギーをたくさん消費してしまいます。しかしマーク氏に同乗していただき見せてもらったスナップロールは、私のそれとは全く異なるものでした。垂直で登りながら美しく速いスナップロールをやって、まだまだたくさんエネルギーが残っている・・・これを体感したとき、飛行とは飛行機ではなくて技術なんだ、と改めて思い直しました。

また、もう一つ厳しい点は、体力。急激なネガティブGとポジティブGの交代が、瞬く間に体力を奪い、疲労により技術を低下させます。特に、スナップロール等筋肉反射でやっている課目の精度が目に見えて低下してきます。最初のうちは、1シーケンス終わっただけで飛行機の中で完全にくたばってしまい、エンジンをしぼって小休止を挟まなければいけませんでした。これも、やはり慣れの問題です。


規定課目の練習。途中で間違えたので中断した。

訓練開始後一週間、アドバンスドの大会が週末にあるから出ないか?と誘われ二つ返事でokしました。朝飛んでいって夕方に飛んで帰る、日帰り選手権です。
 イギリスは平坦でどこも同じような景色。
 GPSが無ければどこを飛んでいるのかすらわからない。

会場であるBreighton飛行場に着くと、すでにたくさんのパイロットたちが集まっています。

 流行りの高性能機、エスバッハ。いつも人が集まってきます。

結果、65%で3位/8人中。あまり感触が良くない。



その二週間後、経験豊富な国際ジャッジであるニック・バッキンガム氏と打ち合わせ、アンリミテッドカテゴリーへ移行するための審査を行ってもらいました。ニック氏最寄りの飛行場であるConington airfieldまで行ってみると、物凄い風・・・明らかに、30ノット以上ふいています。その中こなさなければいけない課題は、このシーケンス。
風でどんどん流される非常に厳しい条件の中なんとか安全に飛び終えることができ、審査に合格、アンリミテッド競技者としての承認を得ました。

その3日後、目標としていたアンリミテッド競技会に参加するため、早朝からElvington飛行場に移動です。天候に恵まれず、雲に囲まれ空軍の飛行場へダイバートし、一時は参加が危ぶまれましたが、なんとか到着することができました。
Elvingtonの写真、これしか撮っていない。いかに余裕が無かったかが分かる。

今回の競技会、アンリミテッド参加者は3人。みんな、今回が始めてのアンリミテッド。常連の強豪たちは来れなかったようです。トムと私はギリギリ審査に間に合った状態・・・。それぞれ経歴も機体も違う若手三人が初挑戦・・・しかも一人はExtra 200で挑戦・・・相当に面白い見物だったようで、飛行の度に声をかけられました。Extra 200でやれるなんて・ブレイクいらないんだ・俺のピッツでもアンリミテッド飛んでくれ・・・等々たくさんの驚きの感想を聞くことができました。たぶんピッツではG制限上どうしてもスキップしなければいけない課目が出てくると思うのですが、この国にたくさんあるエッジ360やエクストラ300L、レーザー(Gが厳しいか?)などは、アンリミテッド対応機として認識され始めたのではないでしょうか。

アンノウン1と2。無茶苦茶な課目構成ではないけど、技術不足のため厳しかった。


結果は58%、2位。60%を超えられなかったのが非常に残念です。科目別スコアを見れば分かるとおり、これは完全に技術の問題であり、パワー云々ではありません。練習が必要です。
この写真に写っている私以外の二人は、今年WAC(世界曲技飛行選手権)に出場するそうです。いいなあ。。。お前も行きたいなら機体貸そうか?と言われ、もちろん私も行きたい気持ちはあるのですが・・・1:金がない(たぶん出るだけで50万は必要)、2:アメリカでの開催(私はアメリカ免許を持っていない)、3:貸してくれる機体での練習期間が無い(トムはパトリックパリスとのトレーニングキャンプを2回やるそうだが、私はその2回とも仕事で行けない)、4:無国籍選手の参加が認められるかわからない、というようなネガティブ要素ばかりが並んでしまうので、それをおしてまで無理やり今年出るよりも、もう少し習熟してから、参加の簡単なヨーロッパで開催されるであろう来年から参加するのが経済的ではないかと思っています。そのためにも、来年以降の仕事を見つけなければ・・・。今必死で次の仕事の応募書類や申請書を書いています(今の仕事の任期が今年度で切れるので)。曲技飛行は一生かけて探求していくものなので、長期的に飛べるよう身分を整えなければいけません。これが一番難しい。

ともあれ次回は、7月に行われるイギリスナショナルに出場します。有り金全部叩いて、今できる限りの訓練を行ってから臨みます。目指すは、65%以上。
帰りはみんなで編隊飛行。編隊を保持するのはかなり疲れる。

飛行場から村に帰る、長い下り坂。

2013年3月19日火曜日

熊谷めぬまグライダーフェスタ2013

風の強い一日でしたが、無事演技を行なうことができました。しかしあまりにも風が強く、舞い上がった砂塵が常に吹きつけているような状況であり、快適に見ていただける状況ではなかったのがとても残念です。以下、RedFoxチームフォトグラファーの山さんに撮っていただいた写真を載せます。

背面で空撮。

テールスライド後の垂直降下















280km/hで地上10mをローパス

そこから引き起こしてインメルマンターン
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フェスタ前日の練習飛行。空撮の帰り道にちょっと遊んだ、という感じですが。

プロカメラマンの方が動画を編集してアップロードしてくれました。素晴らしい出来です。日本チームの動画もこんなふうに作ってみたいものです。

動画に映りこんだウインドソックで分かるとおり、物凄い風です。ポジショニング(位置取り)には細心の注意を払って飛行したつもりですが、やはり演技課目を瞬時に組み替えながら飛ぶ必要に迫られました。ウィングオーバーからローパスに入る計画なんて、元々ありませんでした。自分なりの基準として、これは失敗フライトです。変動する風の中、限られたエネルギ―で決められた位置を飛行することは、大変に難しいものです。このようなエアショーフライトであれば、決められた課目を飛ばなくても、多少のアクロさえやっていれば失敗とみなされることはありません(例えば、風上に進出するためなら、予め予定されていなかった4ポイントロールをやってもよい。)だから位置取り自体は比較的容易です。しかし競技フライトの場合、決められた課目を決められた順番で飛行しつつ、位置を適正に保ちつつ、高速で風上へ水平飛行して位置調整するなどの無駄なエネルギー損失を招く行動は避けなければいけません。トップ選手は、風がふいていてもあたかも風など無いかのごとく飛びます。そのごまかしの効かない、一発勝負の調和的飛行は、実に優雅で壮大な印象を与えます。その感動は、確かにエアショーには存在しないものです。