2029年4月2日月曜日

このブログについて

このブログでは、私の曲技飛行への取り組みを、写真を交えて記述していきます。

私自身の取り組みとはいえ、その活動は必然的に現在の曲技飛行を取り巻く社会的な状況を色濃く反映した形で行われています。曲技飛行は徹頭徹尾社会的な営為です。このことは、曲技飛行がいわゆる「スポーツ」であることからも明らかですし、機体や飛べる環境、訓練できる環境がなければ、どんなお金持ちであろうとも曲技飛行を行うことは出来ないことからも、より実感できるでしょう。そういった社会的な状況、言い換えれば「曲技飛行への入り口」がわからなければ、どのような活動もはじめようがないのです。

このブログの真の目的は、「曲技飛行への入り口」を、広くパイロットの皆様に紹介していくところにあります。

私はこれまで、良い出会いに恵まれました。私の滑空機曲技の師匠は、世界選手権で6回もの優勝実績を誇る競技者、イージー・マクラ氏です。彼のような優秀な選手に師事できたからこそ、私は短期間のトレーニングで世界選手権にまで出場することができました。しかしその実、日本の先輩がこれまでマクラ氏らとのコネクションを築いてきたからこそ、私は彼に師事することができたのです。そして今また、先輩方が築いてきたルートや環境に導かれ、新たな挑戦である動力機曲技競技への取り組みをスタートしました。何もかもが、非常にスムーズに進んでいます。私は、このような恩恵を広く一般に公開していきたいと考えています。ネットが普及した現在において、可能性が地域性の中に閉じられたままであることはナンセンスです。これまでアクセスしづらかったであろうコアな情報を、ここに公開していきます。

思い返せば初めて国際大会へ出たとき、私はまだ大学生でした。アルバイトで貯めた資金で訓練し、大会へ出場しました。アクロバットは金がかかる、確かにそうです。しかし、アクロバットは金持ちしか出来ない、これは嘘です。曲技飛行競技者の職業は、国際的に見ても実際非常に多様であり(好きものどもの集まりですので職業パイロットが多いのは事実ですが)、それは多様であるべきものです。生活にちょっとした工夫を施せば、曲技飛行家としての人生を創りだすことができます。

これから先、できるだけ写真を交えて、説明は少なめに、曲技飛行競技の実際をお伝えしていきます。
これは、未来の曲技飛行士へ向けたメッセージです。
やってみたい、と思われた方からのご連絡をお待ちしています。

2014年9月4日木曜日

アレスティに無い科目をシーケンスに組み込む

現行のアレスティには、ローリングループ(注1)及びナイフエッジ飛行(ナイフエッジ・ループを含む:注2)は存在しない。存在しないからといって、飛行が不可能なわけではない。以下に、これらの機動を盛り込んだアンノウン・シーケンス図と、対応する飛行動画を並置する。これらの機動の可能なバリエーションは多岐に渡るが、試したものは以下のとおりである。

注1)ローリングループとは、ループの軌跡にロールを織り込む機動である。現行のアレスティにも、ループの天辺あるいは下辺に任意の弧角の範囲内で指定のロールを行う科目は存在するが、ここで私の言っているローリングループとは、弧角もロール角度も指定された科目を指す。
注2)ナイフエッジループとは、その名のとおりナイフエッジ状態での宙返りである。つまり、ヨー方向に向かって行うループ。鑑賞者に対して機体は常に背面もしくは腹面を見せた状態で円弧を描くことになる。

■ナイフエッジ系統

ホリゾンタル・ナイフエッジシーケンス1のfig2とfig3のつなぎ、シーケンス2のfig6とfig7のつなぎ、シーケンス3のfig10の天辺
普通のナイフエッジ飛行である。低速だと、基本水平飛行を保つことはできなかったが、ナイフエッジスクエアループの天辺のように、上昇滑りから下降滑りへの以降を伴った放物線機動の場合、機首の位置を一定に保つことにより、地上から見た際の浮き沈みを錯覚により相殺し、仮の水平ラインを出すことができるようだ。高速でのナイフエッジは、試すのを忘れてしまった。

垂直上昇からのクオーター・ナイフエッジループ(シーケンス1のfig2、シーケンス2のfig6、シーケンス3のfig10)
フライオーバーするハンマーを途中で止めるようなもの。ラダーを踏む際の速度が早すぎるとラダーが(胴体が??)失速するだけで、全く機首は転向してくれない。かといって遅すぎるとループ後の水平を保てない。エクストラ200だと90−100ktくらいがほどよい感じであった。水平飛行時においても、80ktがもっともラダーの効く速度帯であることはすでに確認されており、垂直上昇時の知見と整合的である。

ホリゾンタル・ナイフエッジからのクオーター・ナイフエッジループ(シーケンス2のfig7、シーケンス3のfig10)
大きな滑りを伴った垂直降下ラインとして帰結するため、これに引き続くロールやループを安定してこなすために相応の順応が必要となる。アンリミテッド競技者にとっては、スピンやスナップ後のロールとしてお馴染みのテクニックであろう。

ホリゾンタル・ナイフエッジからの45度ナイフエッジループ(シーケンス1のfig3)
非常に簡単であり、多くの機体で実現可能であることが想像される。

■ローリングループ系統

4ロール・フル・ローリングループシーケンス1のfig8
セグメントを区切れば区切るほど、ラダーで旋回しなければいけない弧角が減る。低パワー機には最適なローリングループ。4回もロールすれば、ラダーは機首を維持する程度+αで使っておけば、それなりにロールとヨーが調和しているように見える。2ロール目の後半にスナップするリスクがあるので慎重に回さないとHZをくらってしまう。誰も採点する人はいないのだが。

1ロール・ハーフ・ローリングループダウンシーケンスのfig8)
ループダウンにはアップとは違った難しさがある。アップの難しさは速度の減衰に起因する失速や円弧の変化などであったが、ダウンでは速度がついてくるためラダーに拠るヨーイングが難しくなってきて、コーディネートしづらくなる。特にロール回転数の少ないローリングループの場合、この問題が顕著になる。

1ロール・クオーターローリングループシーケンス1のfig7)
簡単にできる。

3ロール・225度ローリングループシーケンス2のfig5
キューバンの一部としていれこむことができるので、ローリングループから45度ラインへと以降するリズム感がたまらない。

ハーフロール・クオーターローリングループシーケンス1のfig7
ヨーに多少難有り。

3/4ローリングループシーケンス3のfig2
この機動の重要な点は、ヘディングを変えることができることである。垂直上昇時のハーフ(ないしは3/4)ロールに相当する役割を、シーケンス中でもたせることができる。開始ヘディングの水平線あたりを睨みながらやれば、姿勢が分からなくなることもなく楽に飛べる。下向きの場合ヨーに難有り。

3/4・3クオーターローリングループシーケンス3のfig5)
ユニークな機動である。8?の切り返し点(中間点)は、はぼヨーのみで主張することになる。やはりループダウンでのラダー操作が難しい。やったあとで気づいたが、これができるなら1ロール・フルローリングループも案外できるのかもしれない。この科目については地上からの評価を受けていないので、形が成立しているのかどうかはわからない。

シーケンス1                             







シーケンス2                              

シーケンス3                            






シーケンス4                             







ローリングループ系の機動は、従来のループ以上に柔軟な姿勢認識が必要である。特に上に向かってロールしている場合、地平線はつねに回転しているため、従来のループのように単に横を見るだけでは何の判断基準にもならない。視野角範囲内全体の色の配置とその回転をしっかりと満遍なく知覚しながら、一見何も指標が無いように見える空(実際はおだやかな色のグラデーションがあるので視野さえ開けていれば地上を見ているのと同じ)に自分のたどるべき道をしっかりと思い描いて飛ばなければ、すぐにオフヘディングしてしまう。一度できるようになると、ほんとうに自由に飛べているような気がして最高に楽しく、これまでにない開放感を感じるはずである。

2014年4月15日火曜日

ヨーロッパ選手権へ向けた準備(EASAライセンスの取得)

今年のExtra200はDHLからのスポンサードを受けてこんな色に。DHLチームの素晴らしいパフォーマンスはこちらから

かねてより私は、飛行機で最上級クラスの国際大会へ出ること(だけではなく、出続け、技量を高めていくこと)を目標として掲げていた。昨年度イギリスの地方大会でアンリミテッドクラスへ2度出場し技量を上げて、今年は国際大会だ!というところで立ちはだかる壁が、ライセンスと機体の問題である。誰の機体で飛ぶのか、その機体はどこの国に所属しているのか、飛ぶ国で必要なライセンスはどのようなものか。イギリスはこれまで日本のライセンスでそのまま飛べていた。しかし周知の通りヨーロッパの航空業界は変革期にある。EASAの到来である。来年の春頃?以降は、いかなるヨーロッパ籍の飛行機で飛ぶ場合においてもEASAライセンス(ヨーロッパ圏内の国際ライセンス)が必要となる。今年使用させてもらう機体は、大先輩から紹介していただいたスロベニアの競技者が所有する300Lであるため、なんとか今年だけなら期間限定の書き換えライセンスで飛べるということもわかった。しかしどうせ来年からダメになるのなら、さっさとEASAライセンスを採ってしまおうということで、3月に3週間ほど訓練をかねてイギリスに行ってきた。普段は面倒なことは後回しにする性格であるが、今回は仕事上の事情もあり、このチャンスを逃すと先が不確定であるとの考えから、取得に踏み切った。幸いなことに、ロンドン在住の日本人のSさんという方が、すでにEASAライセンスを保有されており、取得へ向けた道筋を示していただいたことも、面倒なことを始める大きなきっかけとなった。そしてなにより、いつもお世話になっているBritish Aerobatic Academy(http://britishaerobaticacademy.com)のAdrian Willis氏によるフルサポートを得られたこと、さらには実質的な訓練を請け負う学校であるRural Flying Corps(http://www.rfcbourn.co.uk/Rural_Flying_Corps_-_Bourn/Home.html)からの寛大なサポートを受けられたことが、順当に取得手順をフォローできたことの最大の要因であった。以下に、日本の自家用陸上単発ピストンのライセンスからEASAの同様のライセンスへと書き換える場合の手順の概略を示す。飛行時間が100時間を越えている場合の事例。あくまで私がたどった手順であり、これから変わる可能性も多々ある。これがヨーロッパのカオスである。少しでもこれから取得する人の参考になれば。


1:English Language Proficiency(航空英語能力証明)を受ける。
Level4以上が必要。Anglo Continental(http://www.anglo-continental.com/en/uk/courses/aviation/aviation-test.htm)というイギリスの英会話学校がスカイプによる受験を受け入れていることをSさんから教えていただき、受験に至った。TEAPというものがそれである。このページを全て読み、サンプルの音声を聞き、メールをして金を払って、指定の日時にスカイプでテスト。もしかするとこの試験は受けなくてもよいかもしれない。CAAからのメールには、技能試験の際に同様の試験を行なったことにもできると書いてあった。保障はしない。

1.5:British Aerobatic Academyに訓練受け入れの相談をする。
これは冗談のようでリアルな話、ヨーロッパ的カオスの中では信頼できる力のある人に面倒を見てもらえるかどうかが物事をうまく運ぶための鍵になることが多い。欧米という言葉にはドライな印象がつきまとうが、実際は・・・笑。本当はどこのスクールでも免許はとれるのだが、私はここに連絡して受け入れてもらうことを強くお勧めする。ウェブサイトに記載されているメアドよりもFaceBookのほうが連絡を取りやすい。

2:航空身体検査(JAR/Part-FCL Class 2 medical certificate)を受ける。
あらかじめ予約しておき、渡航したらすぐに受けておく。どこでもいいが、私はSさんから教えていただいたhttp://www.pilotmedicals.com/この診療所を利用した。とても人の良い医師で、検査も一瞬で終わった(おそらく10〜15分くらい?)。回転椅子に乗せられたりして半日検査されるポーランドとは対照的であった。ふつうのビルの中にあって、看板も何も出ていないし、電話しても出てくれないので30分ほど彷徨い歩いた。これがイギリス流。

3:学科試験を受ける。
必要な科目はAviation law と Human factors。ICAOライセンス所持者なのになんで今更、と思うところではあるが、本来は6個か7個試験項目があり、これでもかなり楽になっているらしい。準備としては、The PPL Confuser(http://shop.pilotwarehouse.co.uk/product210023.html)、という本があるのでこれを覚える。ここからほぼそのまま出る。Sさんの意志で、次に続く人にこの本を渡して、ということなので、私に連絡いただければこの本を手に入れることができる。これをすべて理解して覚えるのはとても大変。このへんも、上記の事情の分かっているスクールを通じて受けることができると、いろいろとやりやすくなるポイントである。

4:技能審査
ICAOライセンス所持者なのに・・・以下略。これだけはごまかしが効かない。延々と2時間以上にわたる飛行の中で微に入り細に入り技能をチェックされる。この飛行試験の準備のために、最低でも2回のフライトは必要だろう。私は特にナビゲーションが苦手で(数字と英語が嫌いなので)、苦労した。Adrianのはからいで、彼が地方巡業をするときのエクストラのナビゲーションを全てやらせてもらえたので、そこでだいぶ経験をつむことができたが、それでもやはりセスナでの不本意な訓練を2度行なうことになった。やらなければいけないことなのに嫌な顔をしてしまう私に辛抱づよく教えてくれたAdrianとRural Flying Corpsの教官には感謝してもしきれない。


以上全ての手順をこなしたら、スクールの教官と一緒に膨大な書類を書き上げ、ログブックと共にCAAに提出する。これで(おそらく)晴れて国際ライセンス所持者となることができる。


(エクストラでクロカン練習中)

ハッキリ言って私は試験だの勉強だの資格だのが本当に嫌いで仕方がない。なぜ仕事でもないのに、こんなに嫌なことばかりやらなければいけないのかと毎日思いながら、それでも夢の為にと思ってやっていた。曲技飛行というのは本当に割の悪い趣味だと思う。生活の全てをなげうって金を貯めても、その後に待っているのは書類、資格、勉強・・・嫌なことばかり。一体何をやっているのだろうか。体一つでできる趣味や道をもっている人が羨ましくて仕方がない。本当に嫌になる。そんな気持ちの唯一のはけ口が、曲技飛行(笑)。試験勉強のイラつきから逃れるかのように、一日5回ほどのフライトをエクストラで行った。その開放感といったらたまらない。飛んでいる間だけは、飛行機としての自分でいられる。そこには何の試験も資格もない。ただ空気があって、体があって、重力があるだけ・・・
(雲間で遊ぶ)


新しいフリーを作った。去年のは理不尽な難しさがあったので、すこし優しく、でももっとチャレンジングな難しさを入れ込んで、技量向上を目指す。大きな着眼はフリックのテクニック。最小のエネルギーロスで最大のアクセントを生み出し、なおかつ軸を通すのが課題。フリックは必然的にフライトパスの揺動を生み出すが、それをどう処理して直線として飛ぶか。
低速からの加速区間を作ったのは私なりの工夫。これで、200馬力の低出力機とは言えど、失高は1500フィート以内に収まる。


今年のノウン。動画を撮ると下手クソなのがよくわかってためになる。

慣れというのは興味深いものである。私のようなヒョロヒョロの青白い研究者でも、毎日毎日飛行を繰り返していると、最終的にはアンリミテッドのシーケンスを一日10回飛んでもあまり目立った疲れを感じなくなってしまった。プラスマイナス8Gが入れ替わり立ち代わりかかってくるため、一般的にはキツいと思われる訓練のはずだが、慣れてしまえばただ椅子に座っているのとあまり変わらない。とはいえ最後はテニス肘になってしまったのだが。

これで、ヨーロッパ選手権へ向けたおおまかな準備は終わったと言えるまだ細かい障害は山積みであるが)。これまで、障害にぶちあたる度に先輩方に助けられてきた。人の夢を応援すること、応援された人がまた別の人を応援すること、そしてお互いに向上していくということ、本当に良い循環だと思う。高い志を持った人々の力でネガティブな要素を全て排除し、straight forwardな仕方で夢に向かって挑戦していきたい。


2014年3月2日日曜日

熊谷めぬまグライダーフェスタ2014

残念ながら、熊谷めぬまグライダーフェスタでのフライトは、悪天候のため中止となってしまいました。
フェスタ前日のリハーサルは予定通り執り行なわれました。その際、航空写真家の山さんにいくつか写真を撮影していただきました。
ナイフエッジ姿勢で旋回しています。

川面でアクロ。

地上30mを背面姿勢、時速270キロでローパスします。公式なショーでは始めての試みだっただけに、本番でお見せ出来なくて残念でした。



朝日新聞デジタル
熊谷市のウェブサイト
http://www.city.kumagaya.lg.jp/kanko/event/maturi/gliderfesta.html

2013年12月4日水曜日

空まつり2013 in SEKIYADO NODA

一度天候のために延期になってしまった空まつり、23日に無事行なうことができました。関宿滑空場は土の質が悪く、一度水が上がってしまうとしばらく引かないようで、それをなんとかするために関係者の皆さんが泥だらけになって作業してくれて、なんとか水が引いたというような状況だったようです。飛ぶということは、どんなときでも地上での努力に支えられてのみ成り立つ行為です。本当に頭が下がります。
(写真は全て山康博氏撮影)

今回のショーは、RedFoxの今後にとって、とても重要なものとなりました。今までのRedFoxエアショーは、とりあえず飛んで、飛行中だけ音楽をかけ、その場に合わせた解説を行う、という演出のみでした。でも今回は根本的に違います。飛行前のパイロット紹介から離陸、演技、そして着陸まで、全て予定調和的にデザインされ、あらかじめ練りに練った音楽とMCによって彩られました。この革命的進展は、エアロックで昔MCを担当されていた岩崎麻衣さんに指導いただき、演出やMCを全て担当いただいたことによって可能となりました。パワー機の余裕を持った演技とは異なる、グライダーの臨機応変な特性をどうやって岩崎さんのメソッドに組み込んだらよいのか・・・たくさん議論を重ね、前日まで試行錯誤の連続でした。パイロットとしても、刻一刻と変化する気象条件の中、どうすれば打ち合わせ通り飛行することができるのか・・・競技フライトにも匹敵する重圧を感じました。いつものエアショーでは、皆から見えるところを飛んで安全に着陸すればよい、という原則を元に、気楽に飛んでいました。実力の3割程度で飛んでいた感覚です。エアショーでは精神面の余裕をとるため、実力の7割以下で飛行するのが良いと言われています。今回のショーでは、7割フルに使いきりました。なんとか上手く計画どおりのショーを行なうことができて、良い前例となりました。次回以降、見る側をしっかり意識したショーを作っていくための大きな布石となりました。
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今回の演目で一番受けの良かったものがこれ。
なんと呼んだらいいのか・・・タンブル?ラムシェバック??


まず垂直上昇しながらポジティブスナップロールに入れて開始します。これにより重心のフライトパスから機首と尾部が外れた状態での回転運動が得られるのですが、この回転に急減速が伴うため、おそらく遠心力により機首と尾部が回転の外側に引っ張られて機体がコマのように回転を始めます(一回転目)。2回転目では、その回転を維持したまま落下に転じるため背面フラっとスピンに移行したように見えますが、実際は慣性で回っているだけです。落下することによりだんだん速度が付いてくるので、停止前90度くらいからは背面スピンの空力に移行しています。

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今回は、演技全体を撮影してyoutubeにアップロードしてくれた方がたくさんいます。

まず航空カメラマンの布留川さんの素晴らしい編集動画。一発目のフライトで、打ち合わせも無しに、これだけの動画を撮るというところにプロの技を感じます。

一般の方撮影の動画。お客さんの反応がわかって嬉しい。



トライアルのトップライダーかつモーターパラカメラマンという魅力的なおじさん、村岡ジッタさんもリハーサルから撮影してくれました。今回は旅人の青山直子さんに公式カメラマンをお願いしたのですが、私自信の知識の至らないところもあり、こちらも村岡さんにご指導いただきました。

RED FOX 2013 11 22 空まつり前日予行
http://www.youtube.com/watch?v=_L0wDNVkc9o
RED FOX2013 11 23空まつり本番
http://www.youtube.com/watch?v=XFzeCjkJsd0
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みんなの努力が身を結び、とにかく上手くいってよかったと心底思えるイベントでした。

10年ほど前、私はこの場所でロック岩崎さんの最後のエアショーを見ました。グライダーの訓練を始めて数ヶ月といった時期だったと思います。自由自在に飛び回るロック岩崎さんの姿を見て、アクロをやりたいという非常に強い思いが私の心に根をおろした瞬間をはっきりと覚えています。そんな私が今こうやって、岩崎麻衣さんと一緒にエアショーを演出し、頑張って飛び終えたその意味は、かつての私のような人を発掘すること、人の心に欲望を喚起すること。このイベントを見てくれた人の心の中に空への欲望が少しでも芽吹いてくれていたら・・・

2013年10月3日木曜日

アクロバット飛行についてのインタビュー


道内広報誌への記事掲載にあたって、(有)アルゴ地域総研の小椋さんよりインタビューを受けました。そのテープを起こしてくださいましたので、ここに掲載させていただきたいと思います。

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グライダーアクロバット飛行について(語り手:梶 聞き手:小椋) 

Q:曲技飛行を始められたきっかけはなにか?
もともと自由に空を飛びたいという思いを持っており、ハンググライダーやパラグライダーに興味を持っていました。飛んでどこかに行きたいというより、自由に空を飛びたいという思いが強かったんです。広島出身なんですが、大学で静岡にきました。そのときにたまたま清水港でエアロックのエアショーを見て、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けました。20歳くらいのときですね。

Q:現在30歳だったら、まだ10年くらいしか経っていないですね。実際に練習を始めた経緯を聞かせてください。
しらべてみると、飛行機のアクロバットは高いし外国でしかできない。でもグライダーでもアクロバットできることがわかり、しかもグライダーの基礎的な飛行なら近場で習えることがわかりました。電車で30分くらいのところに見つけた富士川飛行場でグライダーの訓練をはじめたんですが、そこにREDFOXというグライダーアクロチームが巡回でやってきて体験飛行をさせてもらったんです。そのときチームオーナーの鐘尾(みやこ)さんに、アクロバットをやりたいのならポーランドの先生を紹介するよと言われて・・・その人がイージーマクラーさんという方で、これまで7回世界選手権で優勝している有名な方でした。紹介されて以来、免許を取って、いろいろな要件を満たしてポーランドに行きました。

Q:世界レベルの先生を紹介するならば、それなりの経験を何年も積んだ上でというお話ではないんでしょうか?
「練習して免許を取ったらすぐにでもポーランドに行ってもらうよ」というようなお話でした。

Q:ポーランドへ行く前はある程度、日本でも練習を積み重ねていたんですね。
少しですね。北見の加藤さんにも一緒に乗ってもらいました。板倉滑空場では櫻井玲子さんに乗ってもらって、FOXで10回ほど練習したくらいです。あと、私はカナダでプロペラ機(陸単)の免許も取っているんですが、そのときに、シタブリアという飛行機で自分で1人でやっていたんです。ただ、その経験もあわせても、かなり未熟な状態でポーランドに行きました。それほど、丁寧にきちんとやったわけではないんです。

Q:ポーランド語を勉強して行ったんですね。
いえ、片言の英語でお互いやり取りしていました。マクラさんが角田滑空場に来られたことがあって、その時にredFOXのエアショーがあって、その手伝いに行っていたのでそのときに紹介してもらって面識ができました。そこで「来年行くからよろしく」というお話ができました。最初2週間行って、その後2週間後に、また2週間という感じで、1年目は合計1ヶ月くらい訪問して訓練しました。そのときにヨーロッパ選手権にも出ました。

Q:4週間訓練するだけでヨーロッパ選手権に出場できるということが理解しにくいんですが・・・
アクロバットならそれが可能なんです。例えば、ソアリングの世界選手権なら10年の訓練が必要などと言われるんですが、アクロバットだと短期間の訓練で世界選手権に出ることが可能なんです。アクロは限られた空域のなかで安全に飛んで、ただ降りてくればいい、それだけなので・・・。

Q:曲技というのはどういうスポーツなんでしょうか。その本質についてわかりやすく説明していただけますか。
曲技とは何かというところを追及しだすと際限がないですが・・・簡単に言うと飛行の正確性や美しさを求めるものです。例えば宙返りを描くにしても、その航跡が真円でないといけません。真円になるための過程は無限に近くて、とても難しいです。ちょっと間違うと縦長になったり、降りてくるところが低かったりとかします。ひとつひとつの技が理想的な形でなければいけないので、それを飛行のなかで体現していくのは非常に難しいです。

Q:そうですね、手で円を描くのでも非常に難しいですね。


―重力Gと演技について―

グライダーアクロバットは+7Gから-6Gの範囲の中で飛行します。プロペラ機は+10~-10Gくらいのなかで曲技をします。+の重力では体が押さえつけられ、-のGでは浮く力を受けるのです。直立した状態では+1Gで逆立ちをしているときには-1Gを受けている状態です。Gを受けながら演技をするのは、最初は大変ですが、少しづつ慣れてきます。最初はもちろん、緩やかなGのもとで飛行訓練をします。
強いGをかけなくてもできるアクロバット飛行もたくさんあります。練習のなかで自分が耐えられる無理のない範囲、自分に見合ったGのなかで演技をすればよいのです。楽しみ方はいろいろありますし、強いGに耐えなければいけないと考えることもありません。
マイナスGで頭に血が上り、なかには目の裏の血管が切れて目が真っ赤になったりする人もいます。アドバンストからアンリミテッドくらいの競技レベルでそのような状態になります。この+7Gから-6Gは世界のトップレベルの競技者が受けているGです(プロペラ機アクロだと+8から−8くらい)。滝川のショーでも+6~-4Gを受けています。

Q:デモの方が自由にやれるから、強いGを受けながらでも強引に派手な演技をすることはあるのか?
それはやらない。やる必要がないから。(そこまでしなくても、十分魅せることができるから)。競技では限界に近い軌道を求めます。そのためにGが必要になってくるんです。これに関して言いたいのはループだけなら+2Gでもできるということです。ループだけで曲技として満足の人がいれば、その人はその範囲のなかで曲技を楽しむことができます。人それぞれの目的に従ったやり方があることを強調したいのです。

―曲技と通常の飛行の分け目を無くしたい―

これまでの話の根底にある共通の考えとして、これは曲技なんだ、これは通常に飛行なんだという分け目をなくしたいというのがあります。エアラインや空撮など普通の飛行機は、同じ高度と方向を保って水平直線飛行をやっていますが、曲技にも同じ種目があるんです。(すなわち、普通の飛行機も種類は少ないけれど曲技の種目を選んでやっているんだということです。)水平直線飛行も宙返りも(ループ)も曲技の種目が増えただけで同じようなことをやっているのに、円の形を描いて飛ばすことだけが(一般の人々には)特別なことに思えるのか・・・そういうことではない。直線飛行も円を描くことも全部つながっているんです。直線に飛ばしたいと思ったら直線に飛ばして、曲線にしたいと思ったら曲線にする。飛行機を思い通りに操るという意味では、どんな飛行機でもやることは同じです。


―パイロットの心―

Q:真円を描くには操縦桿を固定すればいいということではなくて、飛行機が真円の軌道をえがくように操縦をしなければならないんですね。操縦桿を(目一杯引いて)固めればいいということではないですよね。
外部条件、気流の条件などが常に変化しています。それにあわせて操縦を行なわなければならないんです。どこかを止めると言う事はどこかを動かすということなんです。

Q:梶さんが追求されているのは「美」として操るということですか?真円を描くとか、水平直線を描くとか・・・美を追求しているという言い方がわかりやすいんでしょうか。ちょっと、真円が欠けても満足できないわけですね。でも、これは自分では見えないんではないですか?
そう、自分では見えないんです。地上からの意見を聞きながら・・・うまくいった時の操縦の仕方だとか・・・景色の見え方とか・・・(それが操縦技術のなかで一体化してどこまで真円に描けているかということが実感できるようになります)

Q:それが快感なんですね。
正直快感とおもったことはないが、無心の状態ですね。その一瞬を生きているんだということだと思います。自分を外から見て「自分は楽しんでいるんだ」という風に思ったことはないんですが、やっぱりやらなきゃいけない、やることが自分のなかの自然なこととして・・・。でもレジャーとしてアクロをやる人であれば、飛ぶことで非日常を感じるんだと思います。しかし自分の場合は、そのときに生きているということしか言いようがないんです。

Q:野球を好きでやっている人が、うまくなりたくて練習していると、その練習が辛くてやめたいと思う。しかし、離れてみると、また、うまくなりたくて練習をしたくなるというような感覚ですか?
辛いというような感覚はあります。しかしそこから離れたいという風には思わないですし、常に練習してうまくなりたいという思いがあります。しかし、飛んでいるときはまた違っていて、自分の意思とか感情が、完全に世界に向けて拡散している状態、自分の境界が消えていて、空気があって、重力があって、飛行機があって・・・そのなかにただいるだけ・・・飛行機が求める飛び方をやるだけ。

Q:そのように頭で考えることを単純化させていかないと、速度の速い演技(操縦)をするのは難しいということなんでしょうか?
考える時間が無い、というのはあります。考える必要も無いですね。例えば「楽しい」なんていう言語化された感情なんかも雑念だと思うんです。勝ちたいとか、悔しいとか、そのときの自分のやっていることを考えるとか・・・、歩いているときに自分のひざの関節の動きなんかは考えないですよね? それと同じことで、考えるということが既に雑念であって・・・。競技中にミスをしたときなんかに、ここはなにをやるべきだったんだろうか、まちがえたんじゃないだろうか・・・そんなふうに考え始めてしまうと飛行がグダグダになります。

Q雑念がはいってしまうと競技としてはダメになってしまうということですね。自分を単純化するということは結構な快感でしょうか?
 後から考えるとそういうことなのかもしれません。

Q自分をシンプルにして何かに打ち込んでいるときは、或意味楽しいんでしょうねぇ、へらへら笑って楽しいというのとは別の楽しいと思える瞬間なんでしょうねぇ。
また、空に上がらせるだけの何かがあるんですよね、それで。スポーツとかやっている人だったら共通に感じているものかもしれません。スポーツでもダンスをやっているときでも、ああ、そう、音楽を聴いているときにでも・・・時間も場所も忘れて、自分は誰でなんてこともわすれて聴き入っています・・・。


―怖くないのか―

怖さという感覚は、実は作り出されたものだと思います。ラインなど通常の飛行をやる人は水平直線飛行をやるけれども宙返りはやらない。しその境界線は本来ないにも関らず、水平直線飛行は怖くないのに、宙返りは怖いという。水平直線飛行に慣れればなれるほど、たくさんやればやるほど、宙返りが怖くなる。だから、通常の経験豊富なパイロットほど、アクロバットを恐れるんです。怖いと思わされているんです。つくられた概念なんです。飛行機を始めたばかりの人にとってはどんな姿勢も(怖さという意味では)変わりません。最初からアクロをやっていればそれが普通の飛行です。アクロパイロットはリスクや怖さと言うものをかなり具体的に捉えていて、このときに何があるから怖いとか・・・。見慣れない姿勢だから怖いというような漠然とした言い方は非合理というか、全く意味が無い。

Q:直線飛行の場合には一番制御できる感覚があるのだろうと思います。姿勢が通常の逆で頭が地面に近くて足が空に向いているというのは、頭から地面に落ちていくという危険性があるので怖いのだろうと思うんですが・・・
このまま落ちるかもしれないというのは、それは、飛行機を制御できていないという風に思ってしまうためでしょう。もし、本当に落ちていればどんな姿勢でも怖いんです。しかし、制御できていることを認識していると怖くないんですよ。最初は水平直線飛行だって思い通りにコントロールできないから怖いんです。逆に言うと、逆さまの姿勢だろうと、どういう姿勢であれ、それに慣れてコントロールできる自信があれば怖くないんです。コントロールできないところが怖い。

Q:つまり、怖さと言うのはコントロールできるかどうか、できているかどうかということだけなんですか。
コントロールできていて、自分が何をやっているか、どういう状態にあるか知っているということでしょう。そして次にどうなるかが予測でき、次の手がわかるということでしょう。アクロの場合は予知できることしかやっていなんです。予知できないものが入り込む領域がかなり少ない。そこがクロスカントリーとの大きな違いかもしれません。

Q:不測の事態、予見できないことが起こる可能性が少ないということですね。
飛行にとって一番予見できないものは気象です。クロスカントリーだと飛行時間も長いし、場所も次々と移動します。いろんな変化する気象に遭遇するわけです。アクロバットだと上がってしまえば1キロメートル四方の10分間のことさえ知っていればいい。

Q:それは逆に言うと管理された環境のなかで飛行するということですね。これは、先ほどの「自由に飛びたいからアクロなんだ」ということと相反することともいえますね。本当は非常に安全なところを管理下にしてやっているんだということですね。こういうことを考えていくと自分が求めているものとやっていることとの矛盾が出てこないですか?
常に矛盾だらけです。自由とか制限とか・・・そのかなで自由とおもわれるものを追求しているんですね。


―難しくないのか―

Q:一般には、アクロバットは失速させて反転するなど普段の飛行では考えられないことをやっているから、当然難しいことをやっていると考えるが・・・
そこにもつくられた側面があって、例えば通常の飛行機が着陸前に行なう旋回は非常に難しい高度な技術がいるのです。通常の飛行のパイロットは操縦の基礎段階からやります。宙返りは操縦桿を引きさえすればなんとなく出来てしまいます。でも旋回の場合には操縦桿を引くだけではなくて、複数のことを同時にたくさん行なわないといけない。

Q:ソロに出る許可が出た練習生の段階から曲技をやる人はいるんですか?
あまりいないです。ソロに出れるからといって、突然、曲技ができるということではありません。飛行機を飛ばして(離陸して)降りてくるという流れの中で宙返りをする必要はないので、そうしたことを習わないのです。

Q:単に離陸して飛行して旋回して着陸する行為の一環として、なぜ、宙返りなどの技術を学ばないのでしょうか?
必要がないということと、練習機はそのために設計された飛行機ではないということがいえます。曲技機は、背面飛行などが可能な性能をもつように構造上の設計がなされている。通常の飛行機はそのようには設計されていない。だから、練習生はその目的で設計された飛行機を設計の目的どおりに操縦している。とはいえ背面飛行ができないような性能の低い飛行機でも自由な飛び方(旋回なども含めて)をしようとする、これはアクロバット飛行と同じ創造性の発露であり同じ精神です。限られた性能のなかで目一杯自由に飛んでみること、これは曲技と一緒なんです。

Q:そういわれれば、通常の飛行機と曲技機が全く別のもので、曲技機専用の操縦性能の高い飛行機があるということは一般の人はあまり知らないことですね。(だから、通常の飛行機で曲技をやっていると思っているから、なんであんな難しいことができるのか、余計に不思議に思うんでしょう。)
飛ぶということには、飛行機の構造上の制約だけではなくて、制度的な制約、身体上の制約などいろんなところから制約がかかっています。飛行機は目的地にまっすぐ飛ぶもんだと言う固まった考え方(制度的な制約)からもっとも自由になりたがっているのがアクロバット飛行です。飛行機の構造が求める動きをひたすら追求しているんです。

Q:赤ん坊から少し大きくなった子供が2足歩行できるようになると、転がってふざけたり、地団駄踏んだり、スキップしたり、片足でけんけけん歩きしたりします。もう少しおおきくなると逆立ちしたり、前方回転や横回転したりしますね。
そうした行為は特別に難しい行為ではなく身体の成長とともに本能的に行なわれる行動ですよね。しかし、どうでしょうか、親は子供を連れてどこかへ出かけるときに、子供がふざけて遊ぶことをなるべく禁じて、常に、ある目的をもって歩くというような行為しか認めない場合が多い。しかし、子供は歩くこととそのなかに内在している、歩くこと以外のふざけるという行為を常に行なおうとします。子供はただ目的地に向かって歩くことだけでは満足せず、走ったり、おっかけっこをやったり、ふざけながら歩いてみたり、いろいろやります。体や心身の能力がそれを求めているのです。普通に歩いて座って寝るといった行為しかさせられなければ、大人になってから、回転してみなさい、横転してみなさいといわれると非常に怖くなるんではないでしょうか。アクロバットもそれと同じです。飛行を始めたときから、回転したり、横転したり、宙返りしているとそのことが楽しくて、何も怖いというような特別なことではなくなるし、特に難しいという操縦でもなくなるんです。

Q:アクロバットをやっていて、そうした本能的(に自由に飛びたいから飛んでいるんだ)なものを感じることはありますか?
感じるかと問われるとはっきりとそうだとは答えにくいのですが、人間誰でもが持っている創造性でしょうし、アクロバットは飛行機の性能上できることを追求していくという面はあります。創造性を失わせて一つの方向だけに固めてしまうものから逃れようとしています。

Q:要は、飛行機に備わった能力を飛行機と一体となって操縦(引き出)していけばいいのであって、そもそもそれを飛行機が求めているわけですから、それは容易で自然にできることなのですね。こういう考え方をもっと広めていく必要があるような気がしてきました。特に、通常の目的地にだけしか飛ばないパイロットたちから広めていかないといけない気がします。
そうですね。まさに、私もそう思います。


―アクロバット飛行はその人の性格が出る―

アクロバット飛行はその人そのものが出ます。私の師匠(マクラさん)は雄大で荘厳なものを求めていて、地上での動きもおおらかなんですよ。飛行自体もおおらかで優雅なんです。逆に、地上で攻撃的な人は競技でも攻める競技をします。地上で論理的な人は論理的なフライトをします。個性がそのまま飛行に表現されます。自動車では隠れた性格が出るといいますが、曲技はそのままの性格が出ます。

Q:車だと普段、おとなしい人でも車に乗ると人が変わって暴力的になるとかありますが、そういう風にはならないということですか?
そういう人はあまり見たことがないですね。おとなしい人はおとなしい曲技をします。車は邪魔が入るんでしょうか、邪魔が入ったときにその邪魔をどう排除しようかと、いろんな車がいる中で(ひしめきあっているなかで)、パワーが引き出されているから余計に奥の感情が出てくるのかもしれません。アクロバットでは飛行機の性能を目一杯使った演技をします。しかし車の場合はその性能を目一杯使うことが許されずに非常にジレンマのある状態で運転させられているということがある。そして、そのパワーを引き出そうとすると、社会的に抑圧された奥の性格によってそのパワーを引き出す(暴走する)という行為になってしまうということなんでしょうか。逆に、アクロバットでは邪魔も入らないし、他人とコミュニケーションすることもありません。ただ、1人で黙々と演技をしますので、素のままの自分が出ます。自分自身を抑圧するような邪念が入らない状態で、能力を目一杯拡散させようとします。そのような状態では、素の自分になっているときがもっとも良い演技ができるからだと思います。素のままの自分でいられるし、それがベストな状態だとわかっているのです。ピアノの演奏などは脱力した状態がもっともいい演奏ができるといわれますね。それと同じようなことがいえるのでしょうか。自分というものに意識が向かなくて、ばあっと自分が拡散していって性能を最大限出しているという状態。何からも抑圧されていなくてただ単に自分の思い通りに・・・・

Q:内側に抑圧するものがなく、能力を目一杯拡散するということですね。

―怖い思いをしたこと、事故にあうかもしれにような事態にあったこと―

曲技の練習や競技のなかで怖い思いをしたことはありません。しかし、そうではない場面での飛行では何回かあります。たった15分の飛行と言えども空の天気は急に変わります。そのへんの天気の知識が弱いために兆候を読み取れなくて怖い思いをすることがあります。例えば、雷雲が迫ってきているのに、まだ大丈夫だと思って曲技の訓練をやっていました。そしたら、意外とはやく雷雲がせまっていて、それほど離れてもいない飛行場に戻るときに、突風に煽られてたいへんな思いをして戻りました。だから、アクロバット以外の飛行に関してもいろいろと勉強や技術を積んでいかないといけないと思っています。また、限られた空間だけで演技したり競技することに慣れすぎると、その空間以外の条件がどのようになっているのかを見落としがちです。

Q:世界選手権などでの競技ではベストな気象条件を求めてエリアを設定するというより、ベストな気象条件がそこに現れるのを待っているわけですね。
アクロバットの競技は定められた1キロメートルの立方空間のなかで、演技を行なうものです。限られた空間で、しかも、風雨など気象条件などの影響を受けにくいベストの条件の下で行ないます。ベストな条件で競技を行なうために競技が1週間も延期されることがあります。今日も風が強い、雲が低いなどと言って1週間も待つことがあるんです。エアショーなどでは、気象条件が悪いときには、飛ばない勇気が特に要求されます。これは、どのようなスカイスポーツでも同じことが言えるのですが・・・。

―アクロバットは禅のようで内向的―

Q:アクロとクロスカントリーや通常の飛行では、精神的な気のつかいかたも違うわけですね。
アクロは禅のようでより内向的に自分の内側にこもっていながらにして抽象的な世界に広がっていくような感じですが、クロスカントリーは具体的にいろんな場を求めてより遠くへ出かけていきます。いろんな気象条件との付き合い方もしらないといけない。ある意味とても社会的です。模式図に描くと、アクロは自分の自己の境界線があったとして、志向として常に内側に向かって行って、どんどん究極的に集約された点に向かうんですが、向かうことによってこの境界線を無限の領域に広げていく。内にこもることによって全体に開く、という感じがあるんです。クロスカントリーはおそらく自分から積極的に自分の境界線を変形させて、新しい環境に適応しながら外へ外へと開いていき、積極的に外部からのかく乱を求める。それによって・・・。

Q:外部の追及も受けながら自分の主張もするよということでしょうか。
そうです。それによって自分の境界線を無限に広げていくということです。アクロとクロスカントリーではマインドが全然違います。


―どんな人がアクロバットに向いているか、どんな人に参加してほしいか―

目が見えている人でアクロが好きな人なら誰でも向いているということしかいいようがありません。もしかしたら、目が見えていなくてもよいかもしれない。

Q:自分の場合に、他人と比べて、自分は向いていないとか、人より劣っていると感じたりすることはないですか?
自分に劣っている点を見つけたり、できないことや課題があるとより楽しくなってきて、また頑張ろうと燃えてきます。向上心を常に持ち続けています。課題を見つけるのが楽しみであって、それが生涯スポーツと呼ばれるところでしょうか。課題をどんどん見つけて、新しいことに挑戦して・・・。とにかく、向いていない人がいるということを絶対に言いたくない。その意味は、その人の限界があるならばその人の限界のなかでやることができるからです。本当に危険な人だったら、教官と一緒に飛べばいい。
劣っていようが向いていなかろうが、「誰でも自由になれる」ということははっきりといっておきたいと思います。自分の求めるものを一歩踏み出せばすぐにできるんだということです。自分のやりたいことをただ単にやるということです。アクロバットというと非常に難しそうに見えるけど、入ってみると簡単なんだ、ということです。だから、どんな人でもすごい難しいことに思えてもやろうとすればできるんです。もちろん、根本的にできないことはできないけれども、やろうとする自由は誰にでもあるし、やろうとすれば結果もついてきます。誰もがトップ選手になれるなんて言いたいわけではなくて、だれもが自分に合った仕方で、自分のイメージを具現化できるし、する自由があると言いたいのです。宙返りできて楽しい、それだけでもいいじゃないですか。

Q:そう言われると、ずいぶんアクロが近くになったような気がします。アクロの体験飛行を桜井さんが行なっている映像をYoutubeで見ました・・・。体験する人が教官の前に乗っていました。梶さんがおっしゃっているように、門を叩けば体験できるということをやっているわけですね。
RedFoxも日常的に体験飛行をこなせているわけではありません。櫻井さんも神戸に住んでいて、板倉滑空場で体験してもらうことは大変なんです。私は札幌だし・・・。滝川のように、行けばすぐ体験できるよといういことではなくて、予め、連絡をいれてもらって、何ヶ月も待ってもらって、やっと実現するような状態なんです。

―どのくらいお金がかかって、どこで習えばよいかなど―

国内ではRedFoxの他にもいくつかアクロ機を運用しているグループはありますが、事前に申し込んでスケジュールを調整して乗せてもらうことになると思います。アメリカなど航空先進国なら、気が向いたときにフラッとスクールに行って乗せてもらうなんてこともできます。目指すレベルによっては、ロシアやヨーロッパに渡って本格的にやっている人と一緒に飛ぶ機会を得るのもいいでしょう。お金に関しても、その人のやりたいことによって1万円〜数千万円とかなり変わってきますので、簡単に言えないんです。関心のある方には、その人に合った訓練の始め方などを個別にアドバイスしています。

2013年8月29日木曜日

2013年度英国選手権(アンリミテッドクラス)への参戦

※この事業は、札幌市スポーツ振興基金助成金を受けて行われました。

英国選手権は、スタンダード(初級)以上のクラスを対象として年に一度行われる国内大会です。私はこの大会のアンリミテッド(無制限)クラスに参戦すべくイギリスへ舞い戻りました。

使用する機体は前回と同様、British Aerobatic Academyのチーフパイロット、エイドリアン・ウィリス氏所有のエクストラ200(参照UR:http://www.BritishAerobaticAcademy.com/)。パワーが無いと言われようが、重いと言われようが、とにかく今年はこの機体で頑張ります。

訓練はいつもと同様、リトルグランズデン飛行場で行いました。基本的には一人で、時々地上から見てもらいながらのクリティーク(評価)を受けながらの訓練でした。以前にも書いたかもしれませんが、国際審判であるニック・バッキナム氏や、世界選手権10位以内に何度も入る実力のマーク・ジェフリース氏に評価を受けることができるここの環境は、競技飛行の上達にとって非常に理想的です。
(飛行場仲間のエアショーパイロットクリス氏と編隊飛行)

アンリミテッド特有の、プラス8Gとマイナス8Gが交互に頻繁に入れ替わり立ち代わりかかってくる身体的負荷も、もう気にならなくなりました。その代わり、これもアンリミテッド特有の、踊っている感覚とでも言うべきでしょうか、細かい数字を気にするでもなく思考を空間全体に広げ、自由に3次元の身体表現を行なうような感覚になります。これは、飛行機の設計やそれをとりまく思想/自然が有する潜在性としての運動に近づけば近づくほど強く感じる感覚であり、やはりグライダーでも飛行機でもアンリミテッドまで行けば同じことなんだな、と今になって確信がもてました。グライダーのアンリミテッドは課目だけ見れば簡単そうに見えるかもしれませんが、その機体の能力が求める通りの飛行という意味においては、飛行機のアンリミテッドと全く同等の困難さ/価値があります。飛行機(自然)−制度−人間の三者間に潜在する規則が無制限の環境の中から浮かび上がるとき、飛行の美が現れます。
(自由演技の動画。エクストラ200の性能の限りをつくします)
(上の動画で飛行している自由演技のシーケンス図)


20時間ほどの練習飛行を2週間ほどかけて行い、選手権を迎えます。十分とは言えませんが、それは誰も同じ条件。頑張るしか無いでしょう。

イギリスは狭い国なので、どの選手権会場もすぐに飛んで行ける距離にあります。リトルグランズデンを飛び立って20分ほど、会場であるSywell飛行場が見えてきました。競技エリアを示すボックスマーカーが敷設してあります。下の写真のオレンジ色に見える「カギ括弧」のようなものがそれです。見えにくいですね。実際飛んでいても、よく見えません。競技中にこんな見えにくいものを探すのも大変なので、結局は地形全体を頭に入れて、全体の流れの中で飛んでいます。重要なのはボックスの中を飛ぶことではなく、適切な場所を飛ぶことです。


競技開始です。パイロットブリーフィングが始まります。今回、無制限クラスの参加者はたったの4人。上位クラスに行くにしたがって人数が減ってきます。みんな、勝つことばかり考えずにどんどん自分の限界に挑戦してほしい。そうしてこそ、飛行技術というものは全体を通じて極限に近づいていくのだから。


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今回アンリミテッドクラスに参加する飛行機たち。

 XA41。エスバッハ、と呼ばれることが多いです。FRP製の超高性能機、だけど下のExtraよりも重量が重い上、ロールレートが爆発的に早いため、制御の難しい飛行機だと言われています。この飛行機に乗るのは、世界選手権の上位常連、ジョー・クーパー氏(http://www.geraldcooper.com/)。彼のようなトップレベルのパイロットと一緒に飛び競えることが、選手権に出る第一の意義です。


Extra330SC。ハイパワーかつ軽く安定しており、ロールレートも十分に早く、とても良い飛行機だと思います。今のところ、一番好きな曲技機。乗ってみたい。この飛行機にのるのは、サイモン・ジョンソン氏。彼は去年アンリミテッドへ昇格したものの、去年の英国選手権は雨のため中止となり、今年が初めてのアンリミテッド選手権ということになります。










Cap232。とても軽いうえ操縦特性も素直らしく、古いのに最高性能を誇っているような感じの面白い機体です。しかも安価。壊れたら部品供給が困難なことが難点?この機体に乗るのは友人のトム・ベネット氏http://www.bennettaerobatics.com/#/pilot/4577022254。若くて才能あふれるパイロットです。彼も今年が始めてのアンリミテッド。
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飛んだアンノウンは以下のようなものでした。



不可能ではないけど・・・高性能機に紛れると厳しい。しかしアンノウン2(右側のやつ)では、67%をとって1位になることができました。性能を経験でカバーできたような気がして、少し嬉しい出来事でした。

しかし総合順位としては4人中4位。これが実力でしょう。

目標としていた65%には届かず、総合63%という結果。とはいえ、2数週間の練習で前回の得点率に5%も上乗せできたということで、まあこんなもんかな、と思っています。曲技飛行の上達がいかに難しく、いかに大きな投資を要するか・・・グライダーでよーく知っています。だからこそ、楽しい。自分に出来ないことを知るのが、楽しい。自分がまだまだだと思えば思うほど燃える。このような自虐的な趣向を持っていてこそ楽しめるスポーツなのかもしれません。


これで今年のパワー機は最後。寂しいものです。次は来年。春以降仕事がなくなることが懸念されていましたが、なんとかあと2年継続できることになりました。なので、来年の夏、アンリミテッドのヨーロッパ選手権(EAC)にチャレンジしたいと思っています。必要なものは二つ。「EASAのライセンス」「高性能機」。道のりは遠いようですが、なんとかなるでしょう。まだまだ、飛行機の本来を求める道は始まったばかり。これからの向上が楽しみでなりません。