2013年4月28日日曜日

イギリスでの動力機競技会 ーアンリミテッドクラスへの挑戦ー

今年の主眼は、動力機によるアンリミテッドクラスへの挑戦です。そのために、グライダーの世界大会もキャンセルしました。第一回目の渡航を終えたので、ここに記録します。

訓練場所は去年と同様、Little Gransden Airfieldです。使用機材も去年と同様、Extra 200。British Aerobatic Academy(http://britishaerobaticacademy.com/)という個人スクールを運営するエイドリアン・ウィリス氏の所有する飛行機です。


このスクールはいわゆる「飛行学校」という雰囲気ではなく、個人塾のようなものに相当するでしょうか。飛行場にあつまる仲良しグループの中に入れてもらって訓練するような感じです。

友人の競技者トム・ベネット氏がCap232に乗って遊びに来てくれた 

経験豊富な競技者に地上から見てもらい、アドバイスを受ける

イギリスのアクロ環境は、私が経験した中でも世界最高です。村の上以外ならどこでも曲技できる空域、オーガナイズしさえすればいつでもグラウンドクリティークが可能な環境、世界でもトップクラスの飛行技術を持つマーク・ジェフリース氏の技術を間近で見て教えてもらうことのできる飛行場、曲技仲間にいつでも会いに行ける適度に狭い国土、週末に終わる気軽な競技会、そして飛行場に連日集まる気のいい人々(本当にいい人ばかり)との飛行機・曲技談義・・・天気さえ良ければ、と思うことはありますが。

とはいえ今年は比較的天気も良く、順調に訓練することが出来ました。今年はアンリミテッドへの挑戦・・・アンリミテッドというのは、言葉の通り無制限クラスであり、曲技飛行の最上級カテゴリーです。求められる機体性能も、競技者の腕前も段違いに高度であり、なかなか挑戦できるものではありません・・・というのが俗説、というか、皆に言われることなのですが・・・本当にそうなのか?パワーが無ければ高度を使えばよいのではないか?下手クソでもネガティブスナップやってもいいんじゃないか?と、私は常々思っていたわけです。アクロというのは、機体の設計が求める機動を人間の限界まで攻めればいいんじゃないか、機体構造的に出来ない機動をやるのは論外だけど、機体が出来るのに人間がやらないっていうのは如何なものか・・・それなりに高性能機に乗っていて腕もあるのに、まだ下のクラスで修行しなければ、なんていう風潮は、やはりナンセンスだと思うのです。その風潮が、飛行経歴が長くて腕も良く、高性能機を持っている限られた人だけがアンリミテッドに出場している現状の地盤を形成し、アンリミテッドは限られたハイパワー機でしか飛べない、というのが通説の根拠となっているのではないかと思います。今回私は、一般的には重くてパワーの無い飛行機と思われている「Extra 200」でアンリミテッドを飛行することにより、その通念を覆しました。

アンリミテッドで難しいのは、上昇しながら「何か」をやる課目が増えてきて、エネルギー的に厳しくなってくるところ。特に、垂直上昇でのスナップロールはエネルギーの減衰が激しく、その後さらにエネルギーを必要とする機動を要求された場合、それを確実に遂行できなくなる場合があるのです。しかし、スナップロールというものは、操縦者の技量によってその特性を顕著に変えます。私のスナップロールはまだ無駄が多く、ロールレートも遅く、エネルギーをたくさん消費してしまいます。しかしマーク氏に同乗していただき見せてもらったスナップロールは、私のそれとは全く異なるものでした。垂直で登りながら美しく速いスナップロールをやって、まだまだたくさんエネルギーが残っている・・・これを体感したとき、飛行とは飛行機ではなくて技術なんだ、と改めて思い直しました。

また、もう一つ厳しい点は、体力。急激なネガティブGとポジティブGの交代が、瞬く間に体力を奪い、疲労により技術を低下させます。特に、スナップロール等筋肉反射でやっている課目の精度が目に見えて低下してきます。最初のうちは、1シーケンス終わっただけで飛行機の中で完全にくたばってしまい、エンジンをしぼって小休止を挟まなければいけませんでした。これも、やはり慣れの問題です。


規定課目の練習。途中で間違えたので中断した。

訓練開始後一週間、アドバンスドの大会が週末にあるから出ないか?と誘われ二つ返事でokしました。朝飛んでいって夕方に飛んで帰る、日帰り選手権です。
 イギリスは平坦でどこも同じような景色。
 GPSが無ければどこを飛んでいるのかすらわからない。

会場であるBreighton飛行場に着くと、すでにたくさんのパイロットたちが集まっています。

 流行りの高性能機、エスバッハ。いつも人が集まってきます。

結果、65%で3位/8人中。あまり感触が良くない。



その二週間後、経験豊富な国際ジャッジであるニック・バッキンガム氏と打ち合わせ、アンリミテッドカテゴリーへ移行するための審査を行ってもらいました。ニック氏最寄りの飛行場であるConington airfieldまで行ってみると、物凄い風・・・明らかに、30ノット以上ふいています。その中こなさなければいけない課題は、このシーケンス。
風でどんどん流される非常に厳しい条件の中なんとか安全に飛び終えることができ、審査に合格、アンリミテッド競技者としての承認を得ました。

その3日後、目標としていたアンリミテッド競技会に参加するため、早朝からElvington飛行場に移動です。天候に恵まれず、雲に囲まれ空軍の飛行場へダイバートし、一時は参加が危ぶまれましたが、なんとか到着することができました。
Elvingtonの写真、これしか撮っていない。いかに余裕が無かったかが分かる。

今回の競技会、アンリミテッド参加者は3人。みんな、今回が始めてのアンリミテッド。常連の強豪たちは来れなかったようです。トムと私はギリギリ審査に間に合った状態・・・。それぞれ経歴も機体も違う若手三人が初挑戦・・・しかも一人はExtra 200で挑戦・・・相当に面白い見物だったようで、飛行の度に声をかけられました。Extra 200でやれるなんて・ブレイクいらないんだ・俺のピッツでもアンリミテッド飛んでくれ・・・等々たくさんの驚きの感想を聞くことができました。たぶんピッツではG制限上どうしてもスキップしなければいけない課目が出てくると思うのですが、この国にたくさんあるエッジ360やエクストラ300L、レーザー(Gが厳しいか?)などは、アンリミテッド対応機として認識され始めたのではないでしょうか。

アンノウン1と2。無茶苦茶な課目構成ではないけど、技術不足のため厳しかった。


結果は58%、2位。60%を超えられなかったのが非常に残念です。科目別スコアを見れば分かるとおり、これは完全に技術の問題であり、パワー云々ではありません。練習が必要です。
この写真に写っている私以外の二人は、今年WAC(世界曲技飛行選手権)に出場するそうです。いいなあ。。。お前も行きたいなら機体貸そうか?と言われ、もちろん私も行きたい気持ちはあるのですが・・・1:金がない(たぶん出るだけで50万は必要)、2:アメリカでの開催(私はアメリカ免許を持っていない)、3:貸してくれる機体での練習期間が無い(トムはパトリックパリスとのトレーニングキャンプを2回やるそうだが、私はその2回とも仕事で行けない)、4:無国籍選手の参加が認められるかわからない、というようなネガティブ要素ばかりが並んでしまうので、それをおしてまで無理やり今年出るよりも、もう少し習熟してから、参加の簡単なヨーロッパで開催されるであろう来年から参加するのが経済的ではないかと思っています。そのためにも、来年以降の仕事を見つけなければ・・・。今必死で次の仕事の応募書類や申請書を書いています(今の仕事の任期が今年度で切れるので)。曲技飛行は一生かけて探求していくものなので、長期的に飛べるよう身分を整えなければいけません。これが一番難しい。

ともあれ次回は、7月に行われるイギリスナショナルに出場します。有り金全部叩いて、今できる限りの訓練を行ってから臨みます。目指すは、65%以上。
帰りはみんなで編隊飛行。編隊を保持するのはかなり疲れる。

飛行場から村に帰る、長い下り坂。