今年のExtra200はDHLからのスポンサードを受けてこんな色に。DHLチームの素晴らしいパフォーマンスはこちらから
かねてより私は、飛行機で最上級クラスの国際大会へ出ること(だけではなく、出続け、技量を高めていくこと)を目標として掲げていた。昨年度イギリスの地方大会でアンリミテッドクラスへ2度出場し技量を上げて、今年は国際大会だ!というところで立ちはだかる壁が、ライセンスと機体の問題である。誰の機体で飛ぶのか、その機体はどこの国に所属しているのか、飛ぶ国で必要なライセンスはどのようなものか。イギリスはこれまで日本のライセンスでそのまま飛べていた。しかし周知の通りヨーロッパの航空業界は変革期にある。EASAの到来である。来年の春頃?以降は、いかなるヨーロッパ籍の飛行機で飛ぶ場合においてもEASAライセンス(ヨーロッパ圏内の国際ライセンス)が必要となる。今年使用させてもらう機体は、大先輩から紹介していただいたスロベニアの競技者が所有する300Lであるため、なんとか今年だけなら期間限定の書き換えライセンスで飛べるということもわかった。しかしどうせ来年からダメになるのなら、さっさとEASAライセンスを採ってしまおうということで、3月に3週間ほど訓練をかねてイギリスに行ってきた。普段は面倒なことは後回しにする性格であるが、今回は仕事上の事情もあり、このチャンスを逃すと先が不確定であるとの考えから、取得に踏み切った。幸いなことに、ロンドン在住の日本人のSさんという方が、すでにEASAライセンスを保有されており、取得へ向けた道筋を示していただいたことも、面倒なことを始める大きなきっかけとなった。そしてなにより、いつもお世話になっているBritish Aerobatic Academy(http://britishaerobaticacademy.com)のAdrian Willis氏によるフルサポートを得られたこと、さらには実質的な訓練を請け負う学校であるRural Flying Corps(http://www.rfcbourn.co.uk/Rural_Flying_Corps_-_Bourn/Home.html)からの寛大なサポートを受けられたことが、順当に取得手順をフォローできたことの最大の要因であった。以下に、日本の自家用陸上単発ピストンのライセンスからEASAの同様のライセンスへと書き換える場合の手順の概略を示す。飛行時間が100時間を越えている場合の事例。あくまで私がたどった手順であり、これから変わる可能性も多々ある。これがヨーロッパのカオスである。少しでもこれから取得する人の参考になれば。
1:English Language Proficiency(航空英語能力証明)を受ける。
Level4以上が必要。Anglo Continental(http://www.anglo-continental.com/en/uk/courses/aviation/aviation-test.htm)というイギリスの英会話学校がスカイプによる受験を受け入れていることをSさんから教えていただき、受験に至った。TEAPというものがそれである。このページを全て読み、サンプルの音声を聞き、メールをして金を払って、指定の日時にスカイプでテスト。もしかするとこの試験は受けなくてもよいかもしれない。CAAからのメールには、技能試験の際に同様の試験を行なったことにもできると書いてあった。保障はしない。
1.5:British Aerobatic Academyに訓練受け入れの相談をする。
これは冗談のようでリアルな話、ヨーロッパ的カオスの中では信頼できる力のある人に面倒を見てもらえるかどうかが物事をうまく運ぶための鍵になることが多い。欧米という言葉にはドライな印象がつきまとうが、実際は・・・笑。本当はどこのスクールでも免許はとれるのだが、私はここに連絡して受け入れてもらうことを強くお勧めする。ウェブサイトに記載されているメアドよりもFaceBookのほうが連絡を取りやすい。
2:航空身体検査(JAR/Part-FCL Class 2 medical certificate)を受ける。
あらかじめ予約しておき、渡航したらすぐに受けておく。どこでもいいが、私はSさんから教えていただいたhttp://www.pilotmedicals.com/この診療所を利用した。とても人の良い医師で、検査も一瞬で終わった(おそらく10〜15分くらい?)。回転椅子に乗せられたりして半日検査されるポーランドとは対照的であった。ふつうのビルの中にあって、看板も何も出ていないし、電話しても出てくれないので30分ほど彷徨い歩いた。これがイギリス流。
3:学科試験を受ける。
必要な科目はAviation law と Human factors。ICAOライセンス所持者なのになんで今更、と思うところではあるが、本来は6個か7個試験項目があり、これでもかなり楽になっているらしい。準備としては、The PPL Confuser(http://shop.pilotwarehouse.co.uk/product210023.html)、という本があるのでこれを覚える。ここからほぼそのまま出る。Sさんの意志で、次に続く人にこの本を渡して、ということなので、私に連絡いただければこの本を手に入れることができる。これをすべて理解して覚えるのはとても大変。このへんも、上記の事情の分かっているスクールを通じて受けることができると、いろいろとやりやすくなるポイントである。
4:技能審査
ICAOライセンス所持者なのに・・・以下略。これだけはごまかしが効かない。延々と2時間以上にわたる飛行の中で微に入り細に入り技能をチェックされる。この飛行試験の準備のために、最低でも2回のフライトは必要だろう。私は特にナビゲーションが苦手で(数字と英語が嫌いなので)、苦労した。Adrianのはからいで、彼が地方巡業をするときのエクストラのナビゲーションを全てやらせてもらえたので、そこでだいぶ経験をつむことができたが、それでもやはりセスナでの不本意な訓練を2度行なうことになった。やらなければいけないことなのに嫌な顔をしてしまう私に辛抱づよく教えてくれたAdrianとRural Flying Corpsの教官には感謝してもしきれない。
以上全ての手順をこなしたら、スクールの教官と一緒に膨大な書類を書き上げ、ログブックと共にCAAに提出する。これで(おそらく)晴れて国際ライセンス所持者となることができる。
(エクストラでクロカン練習中)
ハッキリ言って私は試験だの勉強だの資格だのが本当に嫌いで仕方がない。なぜ仕事でもないのに、こんなに嫌なことばかりやらなければいけないのかと毎日思いながら、それでも夢の為にと思ってやっていた。曲技飛行というのは本当に割の悪い趣味だと思う。生活の全てをなげうって金を貯めても、その後に待っているのは書類、資格、勉強・・・嫌なことばかり。一体何をやっているのだろうか。体一つでできる趣味や道をもっている人が羨ましくて仕方がない。本当に嫌になる。そんな気持ちの唯一のはけ口が、曲技飛行(笑)。試験勉強のイラつきから逃れるかのように、一日5回ほどのフライトをエクストラで行った。その開放感といったらたまらない。飛んでいる間だけは、飛行機としての自分でいられる。そこには何の試験も資格もない。ただ空気があって、体があって、重力があるだけ・・・
(雲間で遊ぶ)
低速からの加速区間を作ったのは私なりの工夫。これで、200馬力の低出力機とは言えど、失高は1500フィート以内に収まる。
今年のノウン。動画を撮ると下手クソなのがよくわかってためになる。
慣れというのは興味深いものである。私のようなヒョロヒョロの青白い研究者でも、毎日毎日飛行を繰り返していると、最終的にはアンリミテッドのシーケンスを一日10回飛んでもあまり目立った疲れを感じなくなってしまった。プラスマイナス8Gが入れ替わり立ち代わりかかってくるため、一般的にはキツいと思われる訓練のはずだが、慣れてしまえばただ椅子に座っているのとあまり変わらない。とはいえ最後はテニス肘になってしまったのだが。
これで、ヨーロッパ選手権へ向けたおおまかな準備は終わったと言える(まだ細かい障害は山積みであるが)。これまで、障害にぶちあたる度に先輩方に助けられてきた。人の夢を応援すること、応援された人がまた別の人を応援すること、そしてお互いに向上していくということ、本当に良い循環だと思う。高い志を持った人々の力でネガティブな要素を全て排除し、straight forwardな仕方で夢に向かって挑戦していきたい。