※この事業は、札幌市スポーツ振興基金助成金を受けて行われました。
英国選手権は、スタンダード(初級)以上のクラスを対象として年に一度行われる国内大会です。私はこの大会のアンリミテッド(無制限)クラスに参戦すべくイギリスへ舞い戻りました。
使用する機体は前回と同様、British Aerobatic Academyのチーフパイロット、エイドリアン・ウィリス氏所有のエクストラ200(参照UR:http://www.BritishAerobaticAcademy.com/)。パワーが無いと言われようが、重いと言われようが、とにかく今年はこの機体で頑張ります。
訓練はいつもと同様、リトルグランズデン飛行場で行いました。基本的には一人で、時々地上から見てもらいながらのクリティーク(評価)を受けながらの訓練でした。以前にも書いたかもしれませんが、国際審判であるニック・バッキナム氏や、世界選手権10位以内に何度も入る実力のマーク・ジェフリース氏に評価を受けることができるここの環境は、競技飛行の上達にとって非常に理想的です。
(飛行場仲間のエアショーパイロットクリス氏と編隊飛行)
アンリミテッド特有の、プラス8Gとマイナス8Gが交互に頻繁に入れ替わり立ち代わりかかってくる身体的負荷も、もう気にならなくなりました。その代わり、これもアンリミテッド特有の、踊っている感覚とでも言うべきでしょうか、細かい数字を気にするでもなく思考を空間全体に広げ、自由に3次元の身体表現を行なうような感覚になります。これは、飛行機の設計やそれをとりまく思想/自然が有する潜在性としての運動に近づけば近づくほど強く感じる感覚であり、やはりグライダーでも飛行機でもアンリミテッドまで行けば同じことなんだな、と今になって確信がもてました。グライダーのアンリミテッドは課目だけ見れば簡単そうに見えるかもしれませんが、その機体の能力が求める通りの飛行という意味においては、飛行機のアンリミテッドと全く同等の困難さ/価値があります。飛行機(自然)−制度−人間の三者間に潜在する規則が無制限の環境の中から浮かび上がるとき、飛行の美が現れます。
(自由演技の動画。エクストラ200の性能の限りをつくします)
(上の動画で飛行している自由演技のシーケンス図)
20時間ほどの練習飛行を2週間ほどかけて行い、選手権を迎えます。十分とは言えませんが、それは誰も同じ条件。頑張るしか無いでしょう。
イギリスは狭い国なので、どの選手権会場もすぐに飛んで行ける距離にあります。リトルグランズデンを飛び立って20分ほど、会場であるSywell飛行場が見えてきました。競技エリアを示すボックスマーカーが敷設してあります。下の写真のオレンジ色に見える「カギ括弧」のようなものがそれです。見えにくいですね。実際飛んでいても、よく見えません。競技中にこんな見えにくいものを探すのも大変なので、結局は地形全体を頭に入れて、全体の流れの中で飛んでいます。重要なのはボックスの中を飛ぶことではなく、適切な場所を飛ぶことです。
競技開始です。パイロットブリーフィングが始まります。今回、無制限クラスの参加者はたったの4人。上位クラスに行くにしたがって人数が減ってきます。みんな、勝つことばかり考えずにどんどん自分の限界に挑戦してほしい。そうしてこそ、飛行技術というものは全体を通じて極限に近づいていくのだから。
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今回アンリミテッドクラスに参加する飛行機たち。
Extra330SC。ハイパワーかつ軽く安定しており、ロールレートも十分に早く、とても良い飛行機だと思います。今のところ、一番好きな曲技機。乗ってみたい。この飛行機にのるのは、サイモン・ジョンソン氏。彼は去年アンリミテッドへ昇格したものの、去年の英国選手権は雨のため中止となり、今年が初めてのアンリミテッド選手権ということになります。
Cap232。とても軽いうえ操縦特性も素直らしく、古いのに最高性能を誇っているような感じの面白い機体です。しかも安価。壊れたら部品供給が困難なことが難点?この機体に乗るのは友人のトム・ベネット氏(http://www.bennettaerobatics.com/#/pilot/4577022254)。若くて才能あふれるパイロットです。彼も今年が始めてのアンリミテッド。
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飛んだアンノウンは以下のようなものでした。
不可能ではないけど・・・高性能機に紛れると厳しい。しかしアンノウン2(右側のやつ)では、67%をとって1位になることができました。性能を経験でカバーできたような気がして、少し嬉しい出来事でした。
しかし総合順位としては4人中4位。これが実力でしょう。
目標としていた65%には届かず、総合63%という結果。とはいえ、2数週間の練習で前回の得点率に5%も上乗せできたということで、まあこんなもんかな、と思っています。曲技飛行の上達がいかに難しく、いかに大きな投資を要するか・・・グライダーでよーく知っています。だからこそ、楽しい。自分に出来ないことを知るのが、楽しい。自分がまだまだだと思えば思うほど燃える。このような自虐的な趣向を持っていてこそ楽しめるスポーツなのかもしれません。
これで今年のパワー機は最後。寂しいものです。次は来年。春以降仕事がなくなることが懸念されていましたが、なんとかあと2年継続できることになりました。なので、来年の夏、アンリミテッドのヨーロッパ選手権(EAC)にチャレンジしたいと思っています。必要なものは二つ。「EASAのライセンス」「高性能機」。道のりは遠いようですが、なんとかなるでしょう。まだまだ、飛行機の本来を求める道は始まったばかり。これからの向上が楽しみでなりません。